【論説】円安で政府・日銀 通貨防衛の責務忘れたか

政府・日銀には、自国通貨である円の価値を守る責務があることを忘れてもらっては困る。

日銀が追加利上げを見送り、金融政策の維持を決めたことを受けて、外国為替市場では一時1ドル=158円台と約34年ぶりの円安水準をつけた。

記録的な円安は石油や食料の輸入コスト増を通じて物価高を再燃させ、景気の柱である個人消費を冷え込ませる恐れがある。政府・日銀は現状を見過ごすことなく、通貨防衛へ打てる手を尽くすべきだ。ここ1カ月ほどの円下落が、米国の金融政策の行方に左右されてきたのは確かである。

物価の落ち着きに合わせて近く利下げへ転じると金融市場でみられていたが、予想を上回るインフレと景気堅調によってその見方が後退。金利が高止まりしていることで、日本との金利差から円安を加速させている。

このため現状で日本が手を打っても効果は限られる、との声がある。しかし米国金利の動向以前に、依然として緩和的な日銀の低金利政策が円安の根底にある点を見落としてはならない。

日銀は3月、賃金と物価がともに上がる好循環によって2%物価目標の実現が見通せるようになったとして、マイナス金利を解除し、11年にわたった異次元緩和に幕を下ろした。

その一方で、植田和男日銀総裁は「当面、緩和的な金融環境が続く」と再三強調。マイナス金利解除後の政策金利が0~0・1%と依然低いこともあり、市場ではこれまでの政策と大差がないと受け止められ、円が売られやすい雰囲気が広がっていた。

円安には、自動車など輸出企業の利益を膨らませるメリットがある。だが他方でエネルギーや食料を輸入に頼るわが国では、コスト増と物価上昇を通じて家計や中小企業に負担となるデメリットが避けられない。先に米ワシントンでの20カ国・地域(G20)などの国際会議で、ドル高自国通貨安への懸念が示されたのも同じ問題意識からだ。

植田総裁は26日、円安が経済・物価情勢に無視できない影響を与える場合に、金融政策で対応する可能性に言及。鈴木俊一財務相も円安による「物価高騰のマイナス面を懸念する」と強調した。

それであれば追加利上げや、円買い為替介入が検討されていいタイミングなのではないのか。

厚生労働省の統計によると、物価高に賃上げが追い付かない状態は23カ月も続く。国民生活を圧迫するインフレが長らく収まらないのに、それを放置するような日銀の姿勢は「物価の番人」の名にふさわしくない。

一方、円安の背景には日米の金融政策の違いに加えて、産業・貿易構造や競争力の変化が横たわっている点も認識すべきだろう。

石油・ガス、穀物類など莫大(ばくだい)な原材料の輸入には、決済のためドルを大量に調達する必要があり、それは円売りと表裏一体である。最近では、米国企業が優位なインターネット関連サービスへの支払い増加が、ドル買い円売り需要につながっている。

このような構造的な円安要因の是正は一朝一夕には進まない。電力の化石燃料依存を低下させる再生可能エネルギーの利用拡大や、国内企業のデジタル分野における競争力強化を着実に進めていく必要がある。