【論説】訪日外国人客増加 観光の持続的成長目指せ

今年1~3月に日本を訪れた外国人旅行者は856万人となった。中国以外からの国が好調で、新型コロナウイルス感染症の流行前、2019年の3188万人を超える勢いと推計される。25年にコロナ前水準に戻すという政府の目標を前倒しで達成できそうだ。

国際的な旅行ブームに加え、急激な円安が追い風になっている。人口減少に伴い日本人の国内旅行は徐々に減少すると予想される。インバウンド(訪日客)の増加を、コロナ禍で傷ついた観光産業の再生と持続的な成長につなげねばならない。

観光は宿泊、旅行、交通、飲食、物販、伝統工芸、農漁業など幅広い産業に支えられており、地域活性化の切り札と期待する市町村も多い。成長に不可欠なのが地域の観光戦略だ。市町村、観光協会、観光地域づくり法人(DMO)などが策定の役割を担う。

訪日客を呼び込むには戦略の策定や交流サイト(SNS)を使った世界への情報発信に加え、「唯一無二の体験」を盛り込んだ高付加価値の商品開発が求められる。

観光庁や日本政府観光局(JNTO)が、セミナーなどを通じ、観光事業に必要なノウハウを提供し人材を育成してほしい。各分野の経験者を派遣するといった人的支援の強化も提案したい。

家族経営の体質が残る旅館や民宿の経営改善も必要だ。事業計画の策定や財務諸表の活用といった企業の手法を採り入れ、ネット予約などのデジタル化を急ぐべきだ。

デジタル化には投資が必要で、一つの旅館だけで実行するのは難しい。行政の支援を受けながら、旅館組合や地元の観光協会が主導して進めるのが現実的だろう。

観光関連の企業が正社員を増やすことも課題だ。旅行者は年末年始や大型連休に集中し、閑散期との差が大きい。1年を通した安定雇用を広げるには、平日の休暇や旅行を促すなど社会全体での取り組みを求めたい。

一方、繰り返し訪日する海外の「リピーター」を増やすには、桜、紅葉、雪だけでなく、通年で楽しめる食やスポーツ、温泉、レジャーなどを組み合わせた旅行商品が必要だ。鎌倉、富士山、京都など人気が集中する地域だけでなく、幅広い地方に観光客を誘致する知恵を官民で絞らねばならない。

地方空港を管理する自治体と、海外の航空会社などが連携し、直行便の就航を進めることも有効な手段だ。

国際観光旅客税(出国税)の24年度税収は440億円が見込まれる。トイレやWi-Fiの整備、ごみ処理など観光客の受け入れに欠かせない対策の多くは、自治体も負担している。出国税の税収増は自治体に重点配分するべきだ。

ホテル宿泊者らから1泊200円などを徴収する「宿泊税」を導入する自治体が増えてきた。独自予算を確保できる上、議会での審議を通じ、観光振興を地域の問題として捉え直すことにもつながり、評価できる。

外国人客の一部による消費税の免税制度の悪用は放置できない。制度に不備があるなら早急に見直してほしい。オーバーツーリズム(観光公害)の問題も見逃せない。

訪日客の増加によって期待できる出国税や宿泊税の収入を、観光振興策やマイナス面の緩和に戦略的に活用することは、持続的な成長の鍵になる。