【論説】プーチン氏5期目 ロシアの暴走を止めよ

ロシアの最高実力者として24年間君臨するウラジーミル・プーチン大統領が通算5期目に入った。批判勢力を徹底弾圧して独裁体制を強化し、正義なきウクライナ侵略戦争を続けるプーチン氏は、「核のどう喝」を繰り返し、国際秩序への深刻な脅威だ。

日米欧などはウクライナ支援を継続し、ロシアへの経済制裁を深化させるとともに、核大国ロシアの暴走を食い止める戦略を策定することが急務だ。

欧州連合(EU)の欧州議会は「3月のロシア大統領選は非民主的、違法で、プーチン大統領は正統性を欠く」と批判する決議を採択した。全くその通りである。

しかし国際社会には、核大国、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアに関与し続け、ウクライナからの撤退など責任ある行動を促す以外の道はない。

ソ連崩壊後に新生ロシアの民主化を目指した故ボリス・エリツィン元大統領は、後継者に指名したプーチン氏に「ロシアを大切にしてくれ」と言い残した。同氏が民主主義を破壊して独裁体制を築き、ウクライナを侵略するなど誰が予想できただろう。

旧ソ連の秘密警察「国家保安委員会(KGB)」出身のプーチン氏は、ガス・石油企業を支配して私腹を肥やす一方、自らに直属する特務機関を使い政敵の政治家やジャーナリストらを暗殺した疑いが濃厚だ。最大の政敵アレクセイ・ナワリヌイ氏は劣悪な環境の獄中で不審死を遂げた。

プーチン氏は「ロシアの歴史的版図の回復」という民族主義思想にかぶれ、ウクライナを侵略。「北大西洋条約機構(NATO)がウクライナを利用しロシアに戦争を仕掛けた」などのうそで国民を欺き、泥沼の戦争に巻き込んだ。

「国家防衛のために戦え」「米欧はロシア崩壊を狙う敵」などとたたき込む愛国・軍事教育が幼稚園から大学まで導入され、社会は全体主義色を強めている。

プーチン氏が米欧を敵視する偏った世界観を持ち、人道主義や倫理観など大国の指導者に不可欠な資質を欠くことが、現状を招いたと言わざるを得ない。

戦争犯罪に問われるプーチン氏と日本が平和条約交渉を行うことはあり得ず、日ロ関係の長期停滞は避けられない。

5期目就任式の演説でプーチン氏はウクライナ戦争への国民の支持を強調、「ともに勝利する」と大見えを切った。

ウクライナを支援する米欧に対し、ロシアは「核使用」をちらつかせてけん制。欧州各地で破壊工作の準備を進めているとの情報もある。

とはいえ、ロシア将兵の死傷者は数十万人に達したとみられ、社会で厭戦(えんせん)気分が高まっている。3月末の世論調査で、ウクライナとの和平交渉を求める声は48%に達し、戦争継続を主張する40%を上回った。

プーチン体制は堅固に見えるが、戦況の悪化や権力闘争などで揺らぐ可能性は排除できない。昨年6月、民間軍事会社ワグネルの武装反乱の際に、体制がまひ状態に陥ったことは記憶に新しい。

日米欧などはあらゆる事態を想定した対ロシア戦略策定を急ぐべきだ。

ロシアの軍事行動拡大を抑止しつつ、欧州の新たな安全保障、戦略兵器削減などの対話に誘導していくことが課題だ。