【論説】イスラエルのガザ攻撃 ラファ侵攻を断念せよ

イスラエルが、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファに対する本格侵攻の準備を進めている。現地では100万人規模が飢えと戦火におびえ日々を送っている。もう逃げ場のない人々を巻き込む戦線拡大は、人道に反する行為であり、断念すべきだ。

昨年から断続的に行われていた戦闘休止交渉では、4月下旬にイスラエルとイスラム組織ハマスの双方にようやく歩み寄りの兆しが見えていた。イスラエルは人質解放後に恒久停戦を議論する用意があるとの譲歩案を示し、恒久停戦を求めてきたハマス側が前向きに検討したとされる。

米国や周辺各国による懸命の仲介が奏功したためだが、イスラエルのネタニヤフ首相は4月30日、休止合意の有無にかかわらず、ラファに侵攻しハマスを壊滅すると強調、「全ての目標を達成する前に戦闘をやめるのは論外だ」と発言した。ハマスに対し〝休戦に合意するな〟とメッセージを送ったに等しい。

昨年10月のハマスによるイスラエル側への越境攻撃は、1200人もの罪のない市民らの命を奪った。歴史の汚点として刻まれるべきテロで、100人以上が人質になっている現状を考慮すれば、強硬策を支持するイスラエル国民の感情にも理由はある。

しかし国家の「自衛権」を盾にしても、あらゆる軍事手段を投入したガザ攻撃は過剰だ。死者は既に3万5千に上り、1万人以上の遺体ががれきの下に埋まっているとされる。住民が飢餓に直面し死者が増え続けるガザは今や〝世界最大の棺おけ〟と呼ぶべき惨状にあり、看過できない。

ラファ本格侵攻に固執するイスラエルに対し、国連のグテレス事務総長は「壊滅的被害が生じる」と警告する。内外の圧力を受け、最大の後ろ盾である米国もついに方針転換し、バイデン大統領は、本格侵攻の場合はイスラエルに「武器を供与しない」と明言。ブリンケン国務長官も「国際人道法にそぐわない行動があったと評価する」と踏み込んだ。

武器供与は対イスラエル支援の根幹で、年間の軍事支援は約38億ドル(約5900億円)に上る。これは日本も取得する最新鋭ステルス戦闘機F35A40機前後の価格に匹敵する。既に弾薬供与は一部停止されており、バイデン氏が武器の供与をやめれば、両国関係を根底から揺るがしかねない、歴史的な決断となる。

パレスチナ人の大量死は同じイスラム教徒が多い周辺国を刺激し、イスラエルは宿敵で地域大国のイランから大規模攻撃を受けたばかり。武器供与停止の影響は長期に及ぶ。自ら命綱を細らせる愚を、イスラエルは選ぶべきではない。

一方米国ではバイデン外交を〝イスラエル寄り〟と批判する学生らが各地でデモ行動するなど、ガザ情勢は地域を越えた不安定要因を生んでいる。共和党重鎮のグラム上院議員は、弾薬供与の停止を批判し「イスラエルは負けるわけにはいかない。これは広島と長崎の究極版だ」と述べた。原爆容認と取られかねない発言で、言語道断だ。

ガザでの悲劇が長引けば、こうした過激な考え方が少しずつ核使用の防波堤をむしばんでいくだろう。イスラエルの軍事行動には、世界の未来すら懸かっていることをネタニヤフ氏に知ってほしい。