絶滅危惧のコアジサシ 営巣地保護へ車両規制
環境省のレッドリストで「絶滅の危険が増大している種」に分類されている渡り鳥コアジサシが今年も、数少ない自然営巣地の一つ、神栖市日川の日川浜海岸周辺で巣を作り、子育てに励んでいる。だが、巣と親鳥の数は昨年に比べ激減。浸食による砂浜減少などに加え、四輪駆動車などの砂浜への乗り入れが原因とみられることから、県潮来土木事務所は車両の乗り入れを規制する看板とロープの柵を緊急設置した。
■目立たぬ卵
同地域で渡り鳥の観察調査と保護活動を続ける市民団体「波崎愛鳥会」によると、同海岸でのコアジサシの営巣は約10年前に始まった。
毎年5月上旬に飛来、砂浜に浅いくぼみを掘って巣とし、6月中旬からウズラの卵ほどの大きさの卵を2、3個産み、8月中旬までに飛び立っていく。
同会が確認している巣と親鳥の数は年々減少傾向にある。昨年は72巣、350〜400羽だったが、今年はわずか9巣、10〜15羽にとどまる。
同会事務局長の徳元茂さん(66)は「営巣期間当初に、レジャーで入ってきた車やバイクが走り回り、コアジサシが寄りつかなくなった。卵やヒナが踏まれる被害も多い」と指摘。巣と卵が目立たないため「みんな知らずに踏んでしまう」という。
■来年は早めに
「コアジサシ営巣期間中のため、立入はご遠慮ください」
営巣期間の真っ直中の13日、営巣地の砂浜にコアジサシの写真入り看板2基が設置され、南北約150メートルにわたってロープが張られた。
同会が呼び掛け、市とともに、県潮来土木事務所に対し営巣地の保護を要望。同事務所が「海岸管理者として環境に配慮したい」として、初めて看板とロープ設置に踏み切った。同会も看板14基を独自に設置した。
これ以降、車両の乗り入れはなく、徳元さんは「繁殖期間はまだある。コアジサシが今後増えることを期待する」と話した。
同事務所は営巣期間後に看板などを撤去する考えだが、「来年は営巣前に早めに設置したい」としている。
■人間の都合で
コアジサシの営巣地は砂浜のほか、海岸工事などによる一時的なしゅんせつ土砂仮置き場なども多い。
以前は同市の波崎海岸近くの土砂仮置き場にも数多く飛来、1995年には国内最多の534巣が確認されていた。その後は高波で営巣地が流出、仮置き場も雑草が茂って砂浜がなくなり、飛来数は年々減少した。
コアジサシは市内の長い海岸線で営巣場所を転々と変えているとみられ、県環境政策課によると、県内では大洗町の防波堤工事の土砂仮置き場でも巣が確認されている。
日川浜海岸で巣の上空を飛ぶコアジサシを見つめながら、同会の柳堀弘会長(68)は「(20年ほど前は同市内で)何千羽も群れで飛んでいた。人間の都合で営巣地をあちこち変えざるを得ずに減少している状況もある」と表情を曇らせ、「とにかくコアジサシがここで営巣していることを多くの人に知ってもらい、静かに見守ってほしい」と語った。 (三次豪)