音楽表現、不屈の5人 重度障害乗り越えCD制作
筋ジストロフィーや脳性まひなどで、身体に重い障害がある人たちが自ら作詞作曲した歌を集め、CDの制作を進めている。楽器を演奏することはできないが、作曲指導をしている村上邦子さん(68)=東海村=と二人三脚で、1小節ずつ粘り強く形にしてきた。完成は5月。村上さんは「障害があっても表現する場やすべがあるということを、多くの人に知ってもらいたい」と力を込める。
CDを制作しているのは桜井敏行さん、高柿祐二さん、根本尚さん、中嶋久子さん(以上、日立市)と、都所健一さん(東海村)の20〜50代の5人。まひなど身体に重い障害があり、言葉をうまく発せない人もいる。
都所さんは自宅で、ほかの4人は日立市社会福祉協議会地域活動支援センター「ゆうあい」の音楽講座で、村上さんの指導を受けている。
作曲はドレミの音階を数字にしたり、一覧表にしたリズム表を使ったりして意思表示し、曲を組み立てていく。1小節ごとに村上さんがピアノで再現し、少しずつ曲を完成させる。1曲の完成が、半年かかることもある。
音楽指導は長い人で10年にも及ぶ。CDにはそれぞれ2曲ずつ選び、計10曲をピアノの弾き語りで収録。希望者には販売する考え。今は、録音とジャケット制作を進めている段階だ。
桜井さん(45)は23歳の時に転倒し、脊髄を損傷。自身の事故と同じ年に倒壊した日立鉱山(日立市)の大煙突に、思いを重ね詞にした。
「あの日から 君は小さくなったけど/あの日から 僕はこんなになったけど/僕の中では変わらない」(大煙突 君は…)
桜井さんは「思い通りの曲が出来上がった時は楽しい」と話す。脳性まひがある中嶋さんは足で五線譜に数字を書き、曲を作る。「CDを聴く人の心に響くといい」と完成を心待ちにする。
村上さんは以前、小学校の教員をしていたが、音楽の経験はなく当初はどう指導していくか試行錯誤の連続だったという。「彼らから教わることはものすごく多い。立派なものに仕上げようとは思っていないが、心を込めてやっていると、自然と感動するメロディーが生まれてくる」と話す。
「どんな障害があろうと、自分の表現を発見できる喜び、人に認めてもらえる喜びが生きる力となるのではないか。CDを通して彼らの世界が広がり、多くの人とつながるといい」とCD制作に奔走している。 (平野有紀)