茨城・大子の畑に苗木60本 植樹8年、初漆かき 品質に定評 生産適地、順調に生育
国産漆の安定生産を図ろうと、茨城県大子町の畑に8年前に植えた漆の木が、漆かきができるまで成長した。地元の漆を使って創作に励む工芸作家らは「大子漆の良さをより多くの方に知ってもらいたい」と、国産品増産に向けた動きを歓迎している。
国産漆はかつて、安価な中国、東南アジア産など輸入品に押され、需要が一部に限られることもあって生産した漆が余ってしまうなど衰退の危機にあった。文化庁が2017年、国宝や国重要文化財の建造物に関し、保存修復に国産漆のみを用いる取り組みを示したことで、増産機運が生まれた。
日本文化財漆協会(東京)が大子町頃藤の休耕地に約60本の漆の苗木を植えたのは、14年3月。同協会理事長(当時)で人間国宝の漆芸家、増村紀一郎氏(現会長)も駆け付け、地元の大子漆保存会が協力し、近隣の大子南中の生徒らと植樹に参加した。
植樹から8年が経過。漆が取れるようになるのには10年から15年はかかると言われるが、気候、土地柄とも漆生産の適地とされる同町で苗は順調に生育した。4メートル間隔に植えた漆の木のうち約50本は、樹液を採取する漆かきができるまでになった。
初の漆かきは今年6月から開始した。雨天の日を除き、午前5時から午後2時ごろまで作業する。樹木の幹に専用工具で横一文字に傷を付け、したたる樹液を素早くこすり取る地道な作業だ。4日置きに次の線を1本ずつ入れながら漆を採取していく。作業は10月ごろまで続く。樹液の採取後は12月に伐採し、次の苗木を植えていく。
漆かきを担っているのは、日本文化財漆協会の常任理事で木漆工芸作家の辻徹さんとその弟子たちだ。常陸大宮市上檜沢に工房を持ち、大子町大子に「八溝塗工房・器而庵」を構える辻さんは、「協会の茨城植栽地の記念すべき最初の漆かきになる。大子漆の良さをより多くの方に知ってもらいたい」と話す。9月には地元中学生らと漆工芸のワークショップを開く計画を立てている。
茨城県は漆の生産量が岩手県に次ぐ全国2位で、そのほとんどが大子産。「透明度や光沢の良さは日本一の品質」とうたわれる。輪島塗や春慶塗などの高級漆器の仕上げに用いられ、人間国宝の漆芸家、大西勲さん(筑西市)なども使用している。
同協会は、大子町や常陸大宮市など県北西部で1年ごとに1カ所ずつ漆植栽地を増やす計画で、これまで8カ所に2千本を植えている。