《連載:北茨城の課題》(下) 観光振興 「通年」展望 描けるか

■コロナ後、官民で誘客へ
「コロナで遠出する機会もなかった。久々に子どもと行けるイベントがあり、うれしい」。2月上旬、茨城県北茨城市で全国各地のあんこう鍋などが楽しめるイベント「全国あんこうサミット」が3年ぶりに開かれ、福島県いわき市から長女(4)と訪れた女性(48)は笑顔を見せた。
新型コロナウイルスの影響で、同イベントは2年連続の中止となっていた。北茨城市のあんこう鍋は秋から冬にかけて観光の目玉。この日、会場では地元の事業者らが提供する鍋を求める人が長蛇の列を作った。
来場者数は4万5千人(主催者発表)で、前回2020年の開催と同水準となった。市商工観光課の職員は「開催を待っていたという来場者や、事業者からも開催を喜ぶ声を聞いている」と手応えを語った。
▽先行き不安視
市は、山や海といった自然資源をはじめ、歴史、文化、芸術などを強みに観光誘客を図ってきた。
市によると、1979年度に約26万3千人だった同市の観光入込客数は年々右肩上がりで増加し、97年度には大台の100万人を突破。ピークの2007年度は約167万4千人に上った。東日本大震災を機に激減し、その後、回復傾向にあったが、コロナ禍が追い打ちをかけた。国の緊急事態宣言発令やイベントの中止などが続き、20年度は100万人を割った。人出は戻りつつあり、22年度は約119万8千人まで回復した。
コロナ禍の間、市内の旅館や民宿、観光事業者らは苦境が続いた。40代の旅館経営者は「震災から徐々に戻り始めたところで、精神的に大変だった」と振り返る。今年5月の大型連休中には客室が全室埋まり「人が戻ってくるプラスの雰囲気がある」という。
一方で、別の40代の宿泊事業者は「売り上げがあっても、人件費や電気代、食材といった全ての価格が上がっている」と窮状を語る。今後予定される東京電力福島第1原発の処理水放出の影響も懸念し、「風評がどのくらい出るのかも分からない」と先行きを不安視する。
▽イベント再開
コロナ感染が落ち着きを見せ、客足回復への期待が高まる中、今後の観光の展望をどう描くかが問われる。市内ではイベントの再開が相次ぎ、観光に関する動きも活発化している。
市は4月、公共の宿「マウントあかね」を開館以来初めてリニューアルし、現在は展望入浴棟を新築している。来年5月には、国の重要無形民俗文化財となっている5年に1度の大祭「常陸大津の御船祭」も控える。
コロナ禍以降、個人客の増加など観光スタイルの変化を受け、市は本年度、今後の観光事業の指針となる「観光アクションプラン」の見直しも進める。
市商工観光課の担当者は「通年で観光客を呼び込めるかが課題」と指摘する。観光事業者の一人は「民間と行政で、長期的なビジョンを描いていくことが必要だろう」と語った。