【自律 茨城・水戸市中核都市5年】 (上) 《連載:自律 茨城・水戸市中核都市5年》(上) 豊かさ掛け合わせ 垣根越え自治体連携

茨城県水戸市が中核市に移行して5年たった。行政機能はどう高まったか。市民にどういう影響をもたらしたか。現状と課題を追った。
住宅や商店が建ち並ぶ同県城里町石塚地区。隣の水戸市西部にあるJR内原駅に向かう路線バスに朝、男性が乗り込む。約18キロを結ぶ路線は19年前に廃止されが、昨年4月に復活した。運行する茨城交通は「減便が続く業界の流れの中、新規路線の開業はめったにない」と話す。
両市町を含む県央地域の9市町村は2022年、自治体の垣根を越えて地域課題に取り組む「いばらき県央地域連携中枢都市圏」を設立。中核市の水戸市を中心に交通や医療をはじめ、教育、防災、観光といった30の分野で連携する。
バス路線の復活も事業の一つ。中高生らが町外に出かけやすいよう料金や運行時間を設定。水戸から観光客らの利用もある。町の担当者は「車のない人が土日に使える公共交通はバスしかない。圏域ができたから協議でき、復活できた」と声を弾ませる。
利用する町内の男性(69)は「再開してくれてうれしい。東京から戻ってきたが車がなくて不自由で困った。本当に助かる」。
圏域は今後、過酷な人口減少時代に入る。国立社会保障・人口問題研究所が公表した50年の人口予測で、圏域9市町村の人口はそれぞれ1~4割ほど減り、総人口も2割減の57万人台に落ち込む。住民が減れば地域は縮み、社会インフラの維持や担い手確保などの問題が顕在化する。
圏域連携は人口減少の衝撃を和らげ、社会経済圏の維持を目指す国の「連携中枢都市圏構想」に基づく。水戸市が20年に中核市に移行したことで、連携中枢都市となる要件を満たした。合併と違った〝緩やかなつながり〟によって、住民の暮らしやすさを維持し、各自治体の持つ豊かさを掛け合わせる道を模索する。
観光連携も進む。首都圏から人を呼び込もうと、食や自然、歴史的な建物をバスや自転車、車といった移動手段に合わせて巡るコースを設定。「あすにでも行ける、おでかけ情報」と交流サイト(SNS)で発信し、コロナ禍明けの観光需要回復に弾みをつけた。市関係者は「(圏域内の)大洗には海、笠間には神社や山、水戸には歴史ある建物がある。組み合わせればより魅力的な観光資源になる」と話す。
連携を深める上で難しさもある。ある自治体幹部は「ハードの整備や集約などダイナミックな事業は組み立てにくい」と明かす。
国は本年度、公共施設の集約化を後押しする財政措置を創設、拡充。施設の老朽化や人口減少に伴う需要減に合わせ、連携中枢都市圏でコンパクト化を促す。ただ、財政上の負担に加え「自分の自治体にないと自分たちのものではないとの認識が行政にも住民にもある」(自治体幹部)などと利害の調整も難しい。
課題はあるものの、県央9市町村は一歩ずつ連携を深めてきた。市担当者は「圏域として取り組んだ方が効果的に進められる」と強調。「人口減少のスピードを緩やかにすることにもつながる」と指摘する。