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【浸水1年 茨城・取手双葉】 (上) 《連載:浸水1年 茨城・取手双葉》(上) 避難発令「恐れぬ」 氾濫教訓、空振りしても

昨年の大雨で越水した双葉地区の農業用水路を見回る取手市職員=同市双葉
昨年の大雨で越水した双葉地区の農業用水路を見回る取手市職員=同市双葉


茨城県取手市双葉地区で大雨被害が発生し、1年を迎える。台風2号や梅雨前線の影響で、約560棟が浸水した。想定を超えた雨量による内水氾濫で被害が拡大。住宅地の避難体制や治水対策、住民の高齢化など多くの課題を突き付けた。自治体は避難対策の在り方を模索し、住民は地域コミュニティーの再構築に力を入れる。


県内に大雨警報が出された昨年6月3日未明、取手市双葉地区の住民から「床上浸水しそうだ」と消防に通報があった。消防は現場に出向き、住民らに建物の2階以上へ「垂直避難」を呼びかけた。

朝を迎え、住民の池田やい子さん(82)は目の前の光景にがくぜんとした。家中が水浸しになっている。「近くを流れる小貝川があふれたのか」。自宅周囲も冠水し、水が引くまで2日間、自宅から動けずにいた。


大雨の影響で、全約1100世帯のうち、半数ほどの約560が床上・床下浸水した。付近で降った2日間の雨量は6月平均の2倍近くに上っていた。

1960年代に整備された県内有数の新興住宅団地。北に牛久沼、南に小貝川がある。地区を挟んで二つの農業用水路が南北に流れ、周囲には水田が広がる。

住宅地を襲ったのは河川でなく、両農業用水路と水田からあふれた水。地区内にある二つのポンプや、小貝川に排水する二つの排水機場は稼働したが、想定を超えた規模の水が流れ込み、排水機能が追い付かない内水氾濫を引き起こした。

市安全安心対策課の担当者は「これだけの規模は想定外だった」と振り返る。市には利根川と小貝川の水位を警戒した避難情報の基準があったが、内水氾濫を想定したものはなかった。

今回の浸水を教訓に市は昨年8月、双葉地区の住民に限定した二つの避難情報を設けた。内水氾濫を念頭に、大雨警報に加え、おおむね6時間の降雨が予測される場合は高齢者等避難を出し、さらに土砂災害警戒情報の発令で住民全員に安全な場所への避難指示を出す。

その上で夜間や床下浸水が発生した場合は垂直避難を呼びかける。地区内で道路冠水した5カ所に浸水検知センサーを設置。いち早く状況を把握し、避難指示を出す際の判断に生かす。


市の担当者は避難情報の運用について「内水氾濫はある程度予測ができる。早めの対応で『空振り』を恐れずに発令を心がけたい」と語る。住民に対する周知も徹底するという。

東京大生産技術研究所の芳村圭教授(水文学)は、気候変動による局所的な水害が相次ぐ現状を踏まえ、「従来よりもきめ細かく精緻でその人(場所)に合った情報が必要」とし、地区に特化した避難情報を評価する。

災害時の行動につなげるため、「判断に迷うことも起こり得るが、住民もしっかりと知識を身に付ける。常に災害が身近に起こり得ると想像力を働かせることが、何より防災には重要」と話した。



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