【浸水1年 茨城・取手双葉】 (下) 《連載:浸水1年 茨城・取手双葉》(下) 「共助」へ交流復活 つながり求め活動手探り
茨城県取手市双葉地区は久しぶりの活気に沸いていた。1年前の大雨で越水した農業用水路近くの広場で5月19日、日曜午後に合わせフリーマーケットが開かれた。
開場前から同地区の住民ら約30人が列をなし、「久しぶり」などと声をかけ合った。住民や社会福祉協議会などが10カ所近いブースを並べ、浸水被害に遭った認定こども園「つつみ幼稚園」も出店。園庭を駐車場に貸し出した。
「日中はあまり顔を合わせないから、元気な様子を見て安心した」。同地区に住む白井ふじ子さん(76)は来場者の中に知人を見つけ、うれしそうに話した。「コロナと水害とが重なり、何となく外出をちゅうちょしていた」とした岡部みさ子さん(72)も話の輪に入り、笑顔がこぼれた。
広場は最も浸水被害が大きかった区域にある。主催したのは同地を拠点にする住民団体「つなぐ・双葉地域交流センター」。代表の中尾正幸さん(65)は「復興した現在の姿を見てほしかった」と開催の理由を説明する。
昨年8月、床上浸水した空き店舗をNPOや自治会などが復旧させ、交流の場に改造。今年3月に運営を住民団体に移行し、約80人の会費や寄付でやりくりする。毎週木曜午後は開放し、住民がお茶会や園芸、将棋など自由な時間を過ごす。不定期でイベントや防犯講座も開いている。
「つなぐ」が生まれた背景には、大雨による苦い経験がある。浸水後、中尾さんはじめ有志十数人で地区内を約1週間かけて回った。「周りの人と付き合いがないから分からない」。そんな声が相次ぎ、住民の安否確認は難航した。
中尾さんらは「普段から交流する場があればよかった。住民が気軽に足を運べる拠点が必要」と痛感。そのときの巡回メンバーが設立に携わった。
双葉地区は1650棟が立つ新興住宅地として整備され、1966年に入居が始まった。同年代の人たちが住み、子どもたちはそれぞれ独立。半世紀以上がたち、残ったのは高齢の親世代。65歳以上の高齢者が半数近くを占め、地区の人口はこの10年間で約2割減っている。
目抜き通りの商店街は閉店が相次ぎ、夏祭りなどのイベントも途絶えていた。つつみ幼稚園理事長の千葉和子さん(82)は「水害に見舞われるまで地域との関わりが少なかった」と振り返る。
浸水した同園は住民やNPO関係者などボランティアの手を借りて復旧にこぎ着けた。「日常の付き合いが今は何よりも心強い」。千葉さんは感謝する。
「つなぐ」の活動は手探りで進む。中尾さんは「交流拠点としての可能性を探りたい。住民同士で助け合える関係を構築し、これからの課題に向き合う」と語る。水害を教訓に再構築されつつあるコミュニティーの力を、いざという時の「共助」に生かす。