《連載:台風13号 茨城県北大雨 1年》(上) 被災農地、復旧半ば 石に木片、撤去に不安も
黄金に色づく稲穂と雑草が茂る水田。あぜ道を挟み、対照的な棚田の風景が広がる。
茨城県日立市小木津町の西町地区。昨年9月8日の記録的大雨で東連津川が氾濫し、川沿いの水田約1ヘクタールは濁流の通り道になった。「ようやく、堆積した土砂を削る工事が終わったところ」。被災農家の一人で近所に暮らす田所寿広さん(71)は話す。
東連津川では県が今春から護岸工事に着手し、その後、市が水田に30~50センチほど積もった土砂の撤去作業を行った。「局地激甚被害」の指定を受け、復旧工事が完了したのは8月だった。
昨年は収穫目前の時期に水害があり、浸水したイネは全滅。今季も作付けはかなわなかった。我慢の日々が続いただけに「来年こそは」との思いは強い。
だが、今も土の中にはゴロゴロした石や細かい木片が残る。農機を使えば故障する恐れがあり「すぐに作業に入れるわけではない」。
石や木片は、冬を越したころに手作業で拾い集める計画だ。獣害対策の柵も失い、コメ作りの生命線である素掘りの水路は勾配が取れていない箇所が残る。
地域の大半は小規模農家。「個人の力だけでどれだけできるだろうか」。田所さんは先行きを案じる。
東連津川は県が管理する中小河川で、山並みを背に棚田が広がる。周辺の川幅は2~3メートルほど。普段は穏やかな流れだが、大雨で水位が急上昇した。
当時、上流の山間部で切り捨てられた大量の間伐材が流出。水田に通じる橋で流木が引っかかり、水をせき止めたことが氾濫をもたらした。
「また同じ事が繰り返されるのではないか、心配は消えない」
同じく水田が浸水した大串和好さん(73)は、上流の森林管理も含めた対策の必要性を訴える。被災後、氾濫場所の橋に背丈ほどの高さまで木くずが積み上がっていた光景は、今も忘れられない。
地域では高齢化や過疎化が進み、担い手不足は共通の課題だ。「完全復旧までには数年かかると思う。元通りになったとしても、正直、自分の代で終わりかもしれない」。大串さんは複雑な胸の内を吐露する。
茨城県内で最も水稲の被害が大きかった北茨城市。関本町福田の水田一帯では今月上旬、台風10号に伴う雨の影響で、収穫目前のイネが倒れ込んでいた。「刈りにくくて倍の時間がかかる。まいっちゃうよ」。約18ヘクタールを栽培する同所の大友忠正さん(71)は苦い表情を浮かべた。
昨秋は近くを流れる里根川が越水して水田が浸水。がれきや土砂は自力で撤去したが、一部のイネは収穫できなかった。復旧を果たし「安心していた」矢先、記憶がよみがえった。
市によると、市内で浸水や土砂流入などの被害を受けた水田は計49ヘクタール。昨年はうち19ヘクタールで収穫ができなかったが、今季は無事に作付けできた。
大友さんは被災を機に、自然災害のリスクを再認識したという。今年は台風の接近を受けて例年より10日ほど早く稲刈りを始めた。「台風が来るたび、不安が募る。何が起こるか分からない」
県北地域を襲った記録的大雨から間もなく1年を迎える。3人が死亡し、住宅586棟が全半壊する被害に見舞われた。被災地では復興が一歩ずつ進み、災害への備えの形を見直す動きも広がる。