【台風13号 茨城県北大雨 1年】 (下) 《台風13号 茨城県北大雨 1年》(下) 教育 共助 刻む教訓 見守り、新たな協力体制
茨城県高萩市下手綱の市立松岡小。校舎の壁沿いに伸びる鉄管の赤いラインが、約60センチに達した当時の浸水深を伝える。
「ここまで水位が上がったら、なかなか歩けない」「自然の怖さを知っておかないと」。水害を想定した6日の訓練。教員の説明に、児童たちは真剣に聞き入った。
昨年9月8日の記録的大雨で、学校近くを流れる関根川と竜子川が氾濫。校舎1階や体育館が床上浸水し、2日間の臨時休校を余儀なくされた。
水害の後、同校は指定避難所となっている約1キロ先の高校ではなく、校舎2階へ逃げる垂直避難の訓練を始めた。飯沼幸則校長は「豪雨の中、全校児童を抱え、歩くのは困難」と理由を語る。
6日の訓練。1階で学ぶ1、2年生76人は「関根川氾濫」の放送を合図に2列に並んで2階へ上がり、緊急時の流れを確認した。学校では備蓄倉庫が浸水した教訓から、児童ら300人分の保存食なども2階に移した。
「子どもたちの安全のため、命を守る意識を高めていきたい」。飯沼校長は教訓を胸に刻む。
「共助」の形を見つめ直す動きもある。
関根川に近い高萩市の特別養護老人ホーム。当時1階が床上浸水したが、入所者約30人を2階へ避難させて無事だった。2020年の熊本豪雨の際に老人ホームで犠牲者が出たのを知り、訓練を重ねてきた経験が生きた。
ただ、周辺の道路が冠水し、施設へ向かうのに苦労した職員もいた。避難に必要な人手が足りなくなる事態を想定し、施設は「自主防災組織との連携を図りたい」と新たな協力体制の検討を始めた。
約2500世帯が暮らす同県日立市の塙山学区。自治組織の「塙山学区住みよいまちをつくる会」は6月、災害情報協力者ネットワークを立ち上げた。
協力者として登録した地域の住民に、自宅から見える範囲の被災状況などを、電話やメールで学区の災害対策本部に伝えてもらう仕組みだ。安否確認や避難行動の支援、行政との連携に生かす。
きっかけは昨秋の水害。「大雨で外に出ることもできず、当日はほとんど地域の情報を把握できなかった」と伊藤智毅副会長(70)は言う。
市内では当時、夕方から夜にかけての3時間で平年の9月1カ月分を超える雨が降り、同学区でも河川の氾濫などで約30世帯が被災した。市内ではほかに、河原子学区コミュニティ推進会も今春から同様の仕組みを導入した。
塙山学区で協力者として登録に応じたのは約120人。新たな「見守りの目」が生まれ、早速、10月の防災訓練で連絡体制の流れを確認する。
西村ミチ江会長(76)は「作った仕組みを確実に生かしていく努力が一番大事。結果的にそれがコミュニティーを強くする」と話す。