《連載:叫び 茨城・いじめの現場から》(1) 広がるうわさ㊤ 続く中傷、孤立深く 「学校は頼れず」転校
「同級生がSNS(交流サイト)で誹謗(ひぼう)中傷した行為がいじめに当たる」。茨城県つくば市の教育委員会に2021年7月、1通の調査申立書が提出された。
申立書を提出したのは、当時市立中2年だった香澄さん=仮名=の父親。申請書には、娘が不登校となり「体調、精神面も不安定」と記された。
▽発信源は同級生
父親や調査報告書によると、香澄さんに関する根も葉もないうわさがLINE(ライン)で流れ始めたのは2年時のクラス替え直後。「裏切り者」「関わらない方がいい。いじめとかしていたみたい」。発信源は同級生。親しかった友人との仲は引き裂かれた。
「一体なぜ?」。香澄さんは理不尽さを覚えながらも「友達に戻りたい」。周囲に頭を下げて耐えることを選んだ。
香澄さんと加害生徒、教員の3者で話し合うと、教員は和解と判断。「仲直り」を保護者に伝えるよう命じたが、直後に香澄さんを中傷するためのライングループがつくられた。
広まるうわさ、深まる孤立。思いとは裏腹に、事態は悪化の一途をたどる。不安が募り、周囲の視線も気になった。香澄さんは次第に学校に通えなくなった。
▽不登校続き転居
父親が異変を察知したのはその頃だ。ある朝、玄関で立ち上がれない娘を見て「何かおかしい」と感じた。間もなく、香澄さんの友人の母親から「香澄さんの変な顔の写真が拡散されている」と連絡があった。
「なぜ教えてくれなかったのか」。SNS上の中傷を「学校側は事前に把握していたはず」。怒りと不信感が募った。
「学校は頼れない」。父親はいじめ被害者の支援団体に助けを求め、団体スタッフと学校へ出向く。程なくして「第三者委員会」が設置されたが、委員長は校長だった。
調査が進み、級友数人は謝罪したが、半年間にわたり不登校が続いていた香澄さんの心身は限界に。結局、22年1月に転校を余儀なくされ、自宅も転居した。
▽消えない怒り
香澄さんの転校から約2カ月後の同年3月、第三者委は調査報告書をまとめた。報告書では、学校側の対応に問題があったと認めながらも、こう続いた。
「保護者が学校や教師に強い拒否感を持ったため、直接的なアプローチができなくなった」「当人たちが保護者に連絡してほしくないなどと述べたことを尊重した結果、保護者への連絡が躊躇(ちゅうちょ)されたと推察された面もある。伝達の遅れを一方的に責めることはできない」
父親の怒りは今も消えない。「むしろこちらから対応をお願いしていた。事実と違う」
いじめ問題が叫ばれて久しい。23年度に全国の小中高校などでいじめを認知した件数は73万件余り。身体的被害や長期欠席が生じた「重大事態」は1306件といずれも過去最多だった。茨城県内で起きたいじめと被害者らの思いを5回の連載で伝える。