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【いばらき 減少時代を生きる】 (第5部 継承(中)) 《連載:いばらき 減少時代を生きる》第5部 継承(中) 技や味、誰に託せば 後継者探しに奔走

焼き鳥を焼きながら、前店主の佐藤貴嘉さん(左)と言葉を交わす現店主の長井健太さん=土浦市右籾、吉田雅宏撮影
焼き鳥を焼きながら、前店主の佐藤貴嘉さん(左)と言葉を交わす現店主の長井健太さん=土浦市右籾、吉田雅宏撮影


「業界の将来を一緒に考えてくれる人を見つけたい」。茨城県日立市で「モモタ電気サービス」を営む百田仁さん(63)は還暦を過ぎ、店の後継者探しに奔走する。「船の電気屋」として船に積む電子機器の取り付けや修理を行ってきた。

千葉県出身。高校卒業後、船舶電子機器メーカーに就職した。27年前、同社が茨城県から撤退したのを機に、妻の故郷で独立した。

魚群探知機やレーダー、無線などの機器は日々進化する。個人事業主の漁師を中心に約300者と取り引きし、一人一人の使い方や好みに合わせた機器の調整は、安全な航行や豊漁に欠かせない。

漁業や漁師を支える業種が、高齢化で存続の危機を迎えている。県内5社の経営者のうち、百田さんは最年少。「後継者を育てずにやめたら、困る人がいる」と数年前から事業承継に乗り出した。

個人ではなく企業を探し、経理など管理業務を任せたいというのが希望だ。「経営という重荷を下ろして、現場で少しでも長く後継者の育成に専念したい」と話す。


国の調査によると、県内企業(個人事業主を含む)の99.9%が中小企業。このうち8割以上は商店街の商店や町工場のような小規模事業者だ。2021年の県内の中小企業数は約7万2800社。09年の調査時に比べ約2万社減った。

帝国データバンクの調べでは、昨年休廃業した約1000社のうち、半数以上が黒字だった。「黒字企業の廃業は、地域社会にとって大きな損失」。県事業承継・引き継ぎ支援センター統括責任者の山口晃男さん(64)は強調する。

センターは自治体や地元の金融機関などと連携し、親族や従業員、第三者への事業承継を支援する。相談者の平均年齢は70歳超。従業員の雇用維持や会社ののれんを残したいなど、条件に合う相手を探す必要がある。山口さんは「少しでも早く相談に来てほしい」と呼びかける。


同県土浦市右籾の焼き鳥店「安兵衛 本店」。前店主の佐藤貴嘉さん(56)は50年以上続いてきた店と、父から教わった秘伝のたれを、常連客の一人だった長井健太さん(44)に託した。

先代である父の死後、母と2人で店を守ってきた。母が4年前に調理中に倒れ、介護が必要に。介護と店の切り盛りに追われる中、コロナ禍で売り上げが減少。「早く店を辞めたいという気持ちしかなかった」と振り返る。

昨年2月、最後の営業日。佐藤さんが閉店後の片付けをしていたところ、大学生の頃から通う長井さんがいつものように現れた。店を畳むと話したところ、返ってきたのは「店を継がせてほしい」との言葉だった。

店ごと継いでくれる相手が見つかり「本当にうれしかった」と佐藤さん。「独り者だし、店を残すのを諦めていた。両親との思い出が詰まった建物を壊さずに済んでよかった」と語る。

佐藤さんは長井さんに、父から教わった独自のたれや店の味全てを伝えた。いずれ店を持ちたいと考えていた長井さんは昨年夏、地元の金融機関などの助けを受け、「安兵衛」を再開した。

長井さんは現在、秘伝のたれを武器に、SNSの発信力とマーケティングの知識を活かして店を盛り立てる。

「この味を100年残す。そのための土台づくりをしたい」



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