《連載:いばらき 減少時代を生きる》第5部 継承(下) 介護の質 科学で向上 「人が支え」転換点

「職員の負担軽減だけでなく、介護の質向上につながっている」
特別養護老人ホーム「アクティブハートさかど」(茨城県水戸市酒門町)に20年以上勤める佐藤里美さん(46)。テクノロジーの活用が進むにつれ、経験に頼ってきた介護現場にゆとりが生まれている。
同施設では2016年以降、睡眠データを取る機器を導入した。ベッドに敷き、デジタル端末を通して利用者の睡眠と覚醒、心拍や呼吸数などが分かる仕組み。排せつ介助のタイミングを図れるなど、巡回の負担減や睡眠改善に役立つ。
現場では他にも多様な機器が活躍する。膀胱(ぼうこう)にたまった尿の量を超音波で計測する機器は腹部にパッドを取り付ける仕様で、排尿の失敗と自信の喪失を防ぐ。
佐藤さんは〝見える化〟で介護の質向上のために「何をすればいいか」が明確化され、労働意欲に結びついているという。大関雄志施設長は、経験だけでなくデータに基づく介護を進めてきたことで、「離職が減った」と効果を強調する。
厚生労働省によると、3月の茨城県介護関係の有効求人倍率は全業種の平均を上回る4.65だった。県は40年度に65歳以上の高齢者数がピークを迎え、介護職が1万2000人超足りなくなると推計。少子高齢化とともに介護現場の人材不足は深刻化する。
対策として県はテクノロジー活用を推進。15年度から国と県で費用の半分を補助する介護機器の普及支援に取り組む。昨年度までの9年間で延べ約270施設が利用。睡眠データの取得や入浴介助、ベッドからの移動支援の機器など2000台超が導入された。
県担当者は「県内全体で考えれば、まだ十分に普及していない」と指摘。制度の積極的な活用を呼びかける。
海外からの人材確保も進んでいる。出入国在留管理庁の昨年12月末の統計で「特定技能1号(介護)」の在留資格を持つ県内外国人は750人。他の在留資格を含めると、介護職を担う外国人はさらに多い。
県は22年度から、ベトナム・ロンアン省の連携機関が教育した介護技能実習生を県内施設で受け入れ、介護福祉士の資格取得を支援するなど人材養成に注力。23年度からはインドにルートを開拓した。
「介護サービスの質の低下や家族への介護負担、介護難民の増加が懸念される」。社会福祉学などを専門とする茨城キリスト教大の富樫ひとみ教授は、人材の恒常的な不足や深刻化に危機感を示す。
その上で、テクノロジー導入促進のほか、労働環境や処遇の改善、介護関連起業の支援など「魅力ある職場づくりを目指すことが必要」と指摘。定年制撤廃、外国人材活用、教育と結びつけた長期ボランティアの創設も挙げる。
一方で「リハビリ促進や健康年齢延伸のための(介護)予防事業の一層の充実が有効」とも強調。人材確保の視点だけでなく、要介護者を減らすことによる人材不足の緩和も重要視する。
「15年後のピークを見据え、取り組んでいかねばならない」と大関施設長。人が人を支える介護は、大きな転換点を迎えている。(おわり)
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