《連載:検証 ’25茨城県知事選》(上)「信任投票」関心薄く SNS駆使も浸透限定

茨城県知事選は現職の大井川和彦氏(61)が、ともに新人の田中重博氏(78)と内田正彦氏(51)を破り、3選を果たした。猛暑の中、交流サイト(SNS)の活用や組織戦などを繰り広げた選挙戦を振り返る。
「今回は事実上の『信任投票』だ」
選挙戦が最終盤を迎えた6日、同県水戸市内で行われた大井川陣営の演説会場で、応援に駆け付けた地方議員はつぶやいた。計17日間に及ぶ期間中、選挙の決まり文句でもある「厳しい戦い」の声はほぼ上がらず、応援弁士はこぞって「圧倒的な得票での勝利」を訴えた。
対抗馬となったのは、前回も一騎打ちで制していた田中氏と、告示前日に立候補を表明した内田氏の2新人。「負けることはないだろう」。陣営内や支持者らに楽観ムードが漂う半面、投票率への懸念は徐々に増した。終盤には大井川氏も期日前投票率の低さに触れ、投票行動を呼びかけた。
投票日を目前に控えた4日、推薦する自民党県連の海野透会長も有権者の関心の薄さに危機感を示した。「地元で声をかけて回っているが、やっぱり盛り上がりに欠けている」
■有効なツール
各陣営は幅広い年代層へ浸透を図ろうと、SNSなどを駆使した訴えを強めてきた。
大井川氏はXやフェイスブック、インスタグラムなど、撮影した動画を媒体ごとに視聴者の年代に合わせて編集。動画投稿サイト「ユーチューブ」では対談形式の生配信も行い、「これまでにない」(陣営)取り組みを進めた。
田中氏も撮影チームが連日、SNSや動画投稿サイトに掲載。陣営は「支持者は高齢者が多い。演説会場に足を運ばない層にどう主張を届けるかが課題」と、若年層や現役世代に関心を促す有効ツールとして活用した。
SNSでの選挙戦が中心だった内田氏は、訴えの内容に加え、選挙関連の手続きや活動の裏側など「親近感」を意識した投稿に努め支持拡大を図った。「コネも地盤もない中で、SNSを最大限駆使するしかなかった」と語った。
■見えにくい争点
それでも、今回の投票率は33.52%となり、関心の高まりは限定的だった。戦後の公選制導入後に実施された計21回のうち、5番目の低さで、コロナ禍の緊急事態宣言下にあった前回の21年を1.50ポイント下回る結果となった。
地方自治論を専門とする常磐大の吉田勉教授は、現職の2期目以降は投票率が下がる傾向にある点を指摘し、「実績をある程度評価していると、選挙に行かないケースもある」と分析。物価高騰などを争点に投票率が5割を超えた7月の参院選と比べ、知事選では争点がイメージしにくかったことも投票率低迷の要因に挙げた。
SNSを活用した選挙戦については、若者が利用しやすく、浸透を促すツールとして有効な一方、「一面的な情報が強調される危険性もある」と警鐘を鳴らす。利用する側の「情報の取捨選択がより重要になる」として、慎重な判断を呼びかけた。