【検証 ’25知事選】 (下) 《連載:検証 ’25茨城県知事選》(下) 与野党相乗りで盤石 票掘り起こしに課題も

「3期目に向けた大きな弾みになる」
決戦の日が2カ月後に迫った7月9日、大井川和彦氏(61)は自民党との政策協定を交わすため、茨城県水戸市内の県連事務所を訪れていた。協定締結で県連からの推薦はほぼ確実となり、晴れやかな表情だった。
曲折はあった。大井川氏による推薦依頼は5月下旬。「個人的には(推薦に)異議はない」。有力な対抗馬が不在となる中で、県連の海野透会長も前向きな姿勢を示すなど、推薦は6月中にもまとまる方向で調整が進んでいた。
しかし、週刊誌報道などを巡り所属議員の一部が推薦に慎重な構えを示すなど、県連内では7月下旬の参院選後の先送り論も持ち上がる。その一方、多くの業界団体からは「推薦の早期決定」を求める声も上がり始めた。県連の推薦決定は7月17日。大井川氏の依頼から、約1カ月半がたっていた。
■強固な組織戦
自民が推薦を決めると、組織的な支援の動きは一気に加速した。公明や国民民主、日本維新の会県組織など与野党4党が相乗りしたほか、県市長会や県町村会、連合茨城、県建設業協会など約400に上る団体も推薦を決め、盤石な体制が固まった。
「さまざまな分野で市町村と連携している」。選挙中は、40を超える大井川氏の地域後援会長を務める首長らが各地の遊説先でマイクを握り支援を求めた。業界団体による多様なのぼり旗も会場のにぎわいを演出。強固な組織による戦いが繰り広げられた。
一方、交流サイト(SNS)を中心に進めた組織外への浸透には課題も残った。海野会長は既成政党に対する有権者の反発にも触れながら、「顔と顔を合わせるのがこれまでの戦い方。ネットでの訴えに限ると偏りが出る」と、票の掘り起こしに地道な活動の重要性を指摘した。
■個人でも対抗
田中重博氏(78)を擁立した政治団体「いのち輝くいばらきの会」の幹部は7日深夜、開票結果に表情を曇らせた。「あり得ない」。陣営は共産党や社民党、支援団体の協力による組織戦を展開。だが、告示前日に出馬表明した内田正彦氏(51)との差はわずか3631票まで肉薄した。
内田氏は組織や団体の支援が一切ない状況で選挙戦に挑んだ。明らかな劣勢をはね返すため、着目したのは大井川、田中両陣営があまり触れていない県政の施策。外国人の県職員採用、パンダ誘致の是非を、保守色を絡めて主張した。
序盤はSNSへの投稿でアピール。メッセージに可能な限り返信するなど、地道に保守層の取り込みや無関心層の票の掘り起こしを図った。主張が浸透し始めた中盤から終盤にかけては街頭演説を織り交ぜ、支持者が様子を動画で拡散させて、認知度や支持が加速的に広がっていった。
当選には届かなかったものの、15万票以上を集めた内田氏。「SNSなどのデジタルと街宣などのアナログの相乗効果」と選挙選を振り返り、「諦めなければ個人でも組織に対抗できる」と手応えをにじませた。