【盟主復活の幕開け J1鹿島9季ぶりV】 (中) 《連載:盟主復活の幕開け J1鹿島9季ぶりV》(中) 鬼木流、信頼を力に 戦う気持ち呼び起こす
サッカーJ1鹿島アントラーズが9季ぶり9度目のリーグ優勝を果たした。長らくタイトルから遠ざかっていた鹿島に再び栄冠をもたらしたのは、今季就任した鬼木達監督(51)。チームに一体感をもたらし、伝統の勝負強さを取り戻した裏には、選手を信じる心と言葉の力があった。
10月、昨季王者のヴィッセル神戸と対戦する前のインタビューだった。ある選手に関する質問に、鬼木監督は「本当に信じているので…」と、鋭いまなざしを記者に向けた。
「『自分が信じないのに、信じてもらおう』という虫の良いことは考えてはいけないと思って生きている」。信頼の意味を人生観とともに説き、こう続けた。
「人と本当に真剣に向き合ったとき、うそではない部分で向き合わないといけない。そういう根っこの部分が本質につながると思っている。そこからやっと指導が始まる」
鬼木監督は、選手と監督という関係の前に、人と人としての関係を築くことで、本当の信頼が生まれると考えている。それがチームに一体感をもたらす秘訣(ひけつ)だった。
指揮官の信じる心は、選手間の絆や意欲の向上につながった。同じポジションの選手たちが助言し合い、自主練習に励む姿が日常になっていた。固定された選手起用が続いた昨季とは異なる光景がクラブハウスに広がっていた。
そうして手に入れたのが、「鹿島らしさ」と呼ばれる伝統の勝負強さだ。近年は夏場からシーズン終盤にかけて失速し、優勝争いに加われなかったが、鬼木監督の力強い言葉と統率力によってチームは伝統を取り戻した。
根本には、指揮官自身が鹿島でプロ生活をスタートし、ジーコさんから学んだ「勝者のメンタリティー」がある。鹿島らしさについて鬼木監督は常々「強さ」を挙げていた。日頃から「鹿島とはどういうチームなのか」を選手に問い続け、心技体全てで「強く戦う」ことを求めた。
さらに、チームを奮い立たせる言葉をかけ続け、選手の戦う気持ちを呼び起こした。その循環の中で、強い集団に変わっていった。
MF三竿健斗(29)は語った。「タイトルを取っているオニさん(鬼木監督)の言うことは説得力がある。求められることをやれば、勝利に近づくと思えるし、みんなも高い意識を持っていた」
名将の下で、鹿島は今後、いくつタイトルを取れるだろうか。黄金時代の再到来に期待が膨らむ9度目のリーグ優勝だった。












