【茨城・選定医療費1年―救急現場の今と未来―】 (上) 《連載:茨城・選定医療費1年―救急現場の今と未来―》(上) 軽症搬送2割減少 徴収の判断、平準化
緊急性がない救急搬送患者から追加料金の「選定療養費」を徴収する茨城県主導の取り組みが、昨年12月2日に始まってから1年がたった。県内の大病院に搬送された軽症者が減る一方、中等症以上の患者搬送は増え、救急車の呼び控えによる重症化も報告されていない。県内の現場や県民の声を踏まえ、取り組みの成果を振り返り、課題を考える。
県内で昨年、最も多い救急搬送8540件を受け入れた土浦協同病院(土浦市おおつ野4丁目)。「血圧が低いですね」「肺炎が起きている」。休日の11月24日も、救命救急センターの医師や看護師が患者に声をかけながら処置に当たっていた。
県が3カ月ごとに発表する「選定療養費」の検証結果によると、対象23病院の徴収率は3~4%台で推移。6~8月の「軽症等」搬送は前年同期に比べ2割近く減った。
選定療養費は本来、紹介状なしで200床以上の病院を受診した場合に通常の医療費とは別に支払う負担を指す。地域の診療所と病院との機能を分け、病院が高度な専門医療に専念できるようにする制度だ。
県内の救急搬送は新型コロナ禍以降、増えた。2023年は14万5000件を超え、6割が大病院に集中。このうち軽症患者は半数を占めた。「緊急性の高い患者の救える命が救えなくなる」。県は大病院に本来の役割を果たしてもらうため、制度の活用を決めた。
県は「選定療養費」の取り組みを始める前に、緊急性の目安となる症状を公表。軽い切り傷や風邪症状、打撲のみの場合などは基本的に緊急性が認められないとした。ただ、実際に徴収するかは医師の判断だ。
土浦協同病院では原則、搬送を受け入れるが、軽症の患者から徴収する一方で、小児から徴収するかは慎重に判断する方針だ。遠藤彰救命救急センター長(43)は「周辺に子どもの救急を扱う医療機関が少ない。地域医療の役割を果たすため」と意図を話す。
県保健医療部の村上信吾企画室長は「徴収判断は病院間で大きな隔たりがないほうが望ましい」。このため、県が毎月開く検証会議で事例を出し合い、徴収判断の平準化やトラブル防止を図っているという。
水戸市は6月、市立小中学校などで教員らが救急車を呼び、選定療養費の対象となった際に保護者の支払額分の全額補助を始めた。県が推奨する子ども救急電話相談を利用しなくても補助される。9月には城里町も同様の制度を整えた。
同市の公立校では昨年度、制度の対象となる事例が2件あった。緊急時に保護者に連絡がつくとは限らない。教員の負担軽減や事例を踏まえての対応だ。
これに対し、ある医療関係者は「県の取り組みは徴収を機に県民の医療リテラシーを向上させるのが目的の一つだったはず。市町村が補塡(ほてん)するから学校で救急車を呼んでいいとなれば、真逆だ」と指摘する。
高橋靖市長は「時間的に余裕があるなら、救急電話相談で助言を受けるのを推奨している」と強調。「徴収を気にして呼ぶのをためらい、子どもたちに重い後遺症を残してはいけない」と理解を求めた。
村上室長は「県民が徴収されるかを判断するのは難しい」とした上で、「命に関わる緊急時は迷わず救急車を呼び、迷ったら救急電話相談を利用してほしい」と話した。











