【素晴らしさと課題・土浦花火を振り返る 小泉裕司】 (中) 10号玉、見事な山﨑
10号玉、創造花火、スターマインの競技部門ごとに、自分なりに講評してみた。
45社中、究極の花火と言われる「五重芯」を出品したのは6社。この中から優勝作品が出るのではとの予想通り、昨年に続き山﨑煙火製造所(茨城県つくば市)の「昇り曲付き五重芯銀点滅」が優勝した。今年は「芯」の見え方を少し変えたようで、開いた瞬間の色分けがより明確になった気がする。さらに安定感を増した「銀点滅」の消え口も見事だった。
上位入賞した野村花火工業や小松煙火工業(秋田県)など5作品は、芯の乱れや色の混濁が気になった。五重芯対決は、昨年から安定した成績を残している山﨑煙火の1強で終了。入賞5作品には「自由玉」2作品が入賞。北陸火工(新潟県)の「椰子(やし)芯入り」は、星を飛ばす割薬が多いのだろう、大きな盆と星先変化が特徴。マルゴー(山梨県)の「瞬き閃光」は、ファンの期待に応えるように色彩豊かな星々をこれでもかと点滅させた。大きな歓声が審査員席に届いたのだろう。
それにしても、昨年から、総じて10号玉の「キレ」の良さが感じられないのは、コロナ禍から一変した受注増への対応や火薬や部品の高騰などが影響しているのかもしれない。
■創造花火の部 新たな展開予感
創造花火の部は、ここ最近技術的にもアイデア的にも斬新性に乏しく、競技としての限界論が浮かんでは消えていたところ、出品作品の充実ぶりを見て新たな展開を予感させられた。
優勝は北日本花火興業(秋田県)の「夜空にしんちゃん! オラは人気者」。今年は型物花火に戻して髙難易度の左右非対称に挑戦。型物は2Dの世界、見えてなんぼのシンプルさゆえの難しさがあるという。今野煙火(商号変更前)から数えて今回で17回目の優勝となった。
準優勝は、芳賀火工(宮城県)の「軌跡を見せます!!トライ&ゴール」。時差式花火で軌跡を表現し、技術貢献度の高い作品に贈られる日本煙火協会会長賞も受賞した。特等の北陸火工「ジュワッと揚げたて! えびFLY」は、見る側の「想像力」が膨らむタイトルと調理前後のエビを表現するという奇想天外な発想で、大いに感心。この2作品は会場を大きく沸かせたが、残念ながら「型物の神様」につま先分及ばなかった。和火屋(秋田県)の「ゴッホのひまわり」は、得意の写輪丸を応用。ファイアート神奈川(神奈川県)の「スマイル×スマイル=」は、口もとの変化のアイデアにタイトル通り笑った。花火師の豊かな創造性を発揮した作品の数々に、来場者の顔に笑みがあふれた。
■スターマインの部 圧巻の菊屋小幡
22作品全てが音楽付きで、花火とのマッチングに評価の重点が置かれる。作風も野村花火工業のような「しっとり系」と、「スターマインの土浦」を継承する「速射連発系」に分かれる。
優勝した菊屋小幡花火店(群馬県)のスターマイン「風神雷神」は、8月の大曲のリメーク版。閃光(せんこう)雷や群声、十八番のフレッシュグリーンを場面ごとに散りばめながら、エンディングまで息もつかせぬ怒とうの展開だった。大曲より100発多い土浦の400発以内の規定を生かした、音と光の「速射連発」。オリジナル曲とのマッチングで、圧巻の作品に仕上げた。
5代目小幡知明(としあき)社長は表彰式のあいさつで、受賞作品は上州かるたの「ら」「雷(らい)と空風 義理人情」と言われる群馬の心意気を表現したと説明。さらに常勝野村花火工業に勝つことへのこだわりを語りながらも、遅い打ち上げ順番や客席に一番近い打ち上げ位置など幸運にも恵まれたと、謙虚だった。思えば、今年の花火初めは1月2日、菊屋小幡花火店の「New Year HANABI」(栃木県茂木町)だった。入賞作品も甲乙付けがたく、「スターマインの土浦」の名の通り、絢爛(けんらん)多彩な煙火の花が夜空に咲き誇った。
全体を通して着目したのは、筒口から一斉に吹き上がる花束状の「ザラ星」だ。これまでスターマインでは菊や牡丹、柳などのアクセサリー的役割を演じてきたが、最近は一度に何色にも瞬くなど手の込んだものが出現、低空から吹き上がる様は、まるで美しい生け花のようだった。
■総理大臣賞 期待かなわず
今回もスターマインの部の優勝者が受賞した。これで20回のうち19回がスターマインの部からとなった。野村社長も「土浦ではスターマインで優勝すれば内閣総理大臣賞がもらえる」と話すように当然の結果のようだが、審査の段階で10号玉部優勝、スターマインの部も入選した山﨑煙火も候補になったと聞いた。秀作・意欲作ぞろいの創造花火の部からという淡い期待は、かなわなかった。
次回最終回は、10号玉の事故や事故対応などを振り返り、大会の課題や100周年への展望をつづる。
(こいずみ・ひろし 花火鑑賞士、元土浦市副市長)