【素晴らしさと課題・土浦花火を振り返る 小泉裕司】 (下) 経験生かすも、あわや大惨事
長野県の業者が出品した作品名がアナウンスされるのと同時に発射音が響き、左右にパッパッパッと直線的に星を飛ばしながら上昇したが開花せず、不安をかき立てる一瞬の静寂の直後に、小さな光が加速しながら落下を開始。ラジオ解説をさせていただいていたその隣席から「開け、頼む」という悲痛な叫びが上がった。
その願い空しく、まるで水上花火のように、彩色の星々が半月状に飛散した。来場者や花火師の脳裏に「またか」という落胆の文字が浮かんだに違いない。何が起きたのか最後まで分からず騒然とした過去の花火事故とは異なり、破裂場面を目の前にして会場全体が静まり返り、ただ落下した方向を見つめるのみ。
■点火小屋に逃げ込む
打ち上げ現場では、上空の異常を感じた瞬間、花火師らは危機一髪、点火小屋に逃げ込んだとのこと。直後に小屋を出て、人的被害や打ち上げ筒、建物への影響がないことを確認、継続の可能性を検証したという。
さらに300メートル離れた打ち上げ本部、対岸の大会本部と最新かつ正確な情報を共有。状況をアナウンスして来場者とも共有しつつ、大会本部と警察、消防の三者協議を進め、人的被害もなく打ち上げ継続可能と判断し競技再開を決定したと聞いた。
その後行われた大会提供花火「土浦花火づくし」の安藤真理子市長あいさつでは、事故に触れながら競技再開の安堵感を来場者に伝えた。来場者への説明責任を果たせなかった過去2回の花火事故対応の経験が生かされたのだろう。短時間で再開した今回の危機管理対応について、実行委員会は「日ごろのリスク管理と各機関の連携の賜物」と胸を張った。
■貴重な地域資源
それにしても、駐車場のアスファルト路面に残る円形のくぼみが衝撃の強さを物語っているように、重さ10キロ前後の10号玉が300メートルの高さから新幹線の最高速度と同じ時速280キロ前後で落下したにもかかわらず、ショッピングセンター壁面の小さな焦げ跡ぐらいで大事故にならずに済んだのは、予報通りの北東の風、微風が幸いしたのだと思われ、単に運が良かったからに過ぎない。事故の責任は一義的には不良品を出した業者にあるのだろう。事を荒立てることなく済ませたいところだが、狭あいな会場など従前からの課題に腰を据えて向き合う必要があるのかもしれない。
実行委員会では来年に向け、すでに大会提供花火の楽曲選びの作業をスタートさせた。そして2年後、土浦の花火は100周年を迎える。大会の歴史をひも解きながら、未来への貴重な地域資源として見つめ直す絶好の機会にしてほしい。
(こいずみ・ひろし 花火鑑賞士、元土浦市副市長)