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《連載:鉄路の明日 水郡線90年》(上) 沿線一丸 利用増へ力 機運醸成、取り組み多彩 茨城

久慈川を渡るJR水郡線。4日に全線開通90周年を迎える=大子町頃藤
久慈川を渡るJR水郡線。4日に全線開通90周年を迎える=大子町頃藤


茨城県の県都水戸市と県北地域を結ぶJR水郡線が全線で開通し、4日で90年を迎える。人口減少により利用が伸び悩む一方、久慈川に沿って豊かな自然を巡る列車は、地域住民の移動手段として欠かせない役割を果たしてきた。将来的な路線の維持へ向け、行政や沿線が連携した取り組みを進めている。

水郡線は1892年、国が水戸-太田間で、鉄製レール上に馬が客車を引く馬車鉄道の敷設を認可したところから歴史が動き出す。計画はその後、普通鉄道に変更され、私鉄「太田鉄道」として99年に同区間で開通。1901年には太田鉄道の解散に伴い、別の私鉄「水戸鉄道」が運営を引き継いだ。

水戸鉄道がさらに上菅谷-大宮間を開業し路線を拡大する一方、国も18年以降に大宮-郡山間の「大郡線」整備に乗り出す。27年に水戸鉄道が国有化されると、全ての路線を「水郡線」と改称。34年12月4日、磐城棚倉-川東間が開通したことで、現在の姿となった。

近年は人口減少やモータリゼーションの進展を背景に、公共交通機関の経営環境は厳しい状況が続いている。特に県北地域では、少子高齢化が加速していることもあり、水郡線の路線維持に向けた対策は大きな課題として挙がる。

こうした環境の中、県や沿線の6市町などは85年、「水郡線利用促進会議」を発足。地域に欠かせない公共交通の維持を目的とした利用機運の醸成に向け、節目ごとのSL運行や愛称「奥久慈清流ライン」の設定など、沿線が一丸となった多彩な取り組みを続けている。

2022年には組織内に若手職員によるワーキングチームを立ち上げ、「通勤通学」「観光誘客」を中心に、地域や学生らも巻き込んだ対策を探る。今年1月に開催したシンポジウムでは、高校生が「水郡線グッズ開発」などを提案し、商品化を後押ししてきた。

通勤通学客を増やそうと昨年から、定期券利用者を対象とした新たな取り組みも始めた。沿線の飲食店などで割引サービスが受けられる優遇制度で、参加店舗は11月末現在、37店まで広がった。通勤での乗車を促すため、駅周辺の駐車場利用の補助なども進めている。

全線開通90周年を目前に控えた11月30日と今月1日、同県大子町では同会議が企画した「水郡線フェス」を開催。スナック菓子「うまい棒」約5万本を使い沿線の子どもたちが制作した「リスカの地上絵」がお披露目されたほか、沿線グルメの提供やコンサートなども開かれ、多くの来場者でにぎわった。

それでも一部区間で年間収支が赤字となるなど、路線維持に向けた深刻な状況は続く。大井川和彦知事は11月の会見で「地方にとって水郡線の維持は大きな命題。さらに利用者を増やす手段や政策を考え、打ち出していく」と強調した。

久慈川に沿い県北を巡る総延長147キロの列車は、地域の移動手段として欠かせない役割を果たしてきた。県交通政策課の中嶋拓人さん(45)は「路線維持には地域住民が『自分ごと』として意識することが大切。沿線一丸でさまざまな活動を継続する形を築きたい」と話す。



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