《連載:鉄路の明日 水郡線90年》(下) 地域の足「守らねば」 苦しい経営、利用促進策 茨城
午前7時、JR水郡線上菅谷駅。列車を逃すまいと、人々が足早に駅へ駆け込む。水戸や常陸太田、郡山の3方面に伸びる同駅のホームでは、多くの利用者が列車を待っている。
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、1日の平均乗客数は少しずつ回復している。ただ、沿線の人口減少は加速し、依然として苦しい経営状況が続く。
JR東日本は2022年、利用者が少ない地方路線の収支を初めて公表した。同線は常陸大宮-常陸大子間、常陸大子-磐城塙間の2区間で赤字が続いている。23年度には上菅谷-常陸太田間が加わり、県内区間の赤字額は計22億800万円に上った。
全国にはさらに厳しい路線もある。国土交通省は23年、路線の存廃やバス転換を検討する「再構築協議会」設置の制度をつくった。今年、全国で初めてJR芸備線(岡山、広島)の一部区間で協議会が設けられた。
「人々の生活になくてはならない路線。私たちが守らなければ」。同水戸支社水郡線統括センターに勤務する高村真未さん(35)は茨城県那珂市出身。自身も学生時代から水郡線を利用している。同支社員の有志でつくる「地域に生きる!!水郡線活性化プロジェクト」の一員で、21年の発足時から活動の中心を担う。
水郡線は19年10月の東日本台風による大雨で、久慈川に架かる鉄橋が流され、一部で運休を余儀なくされた。21年に全線復旧した際、沿線地域の過疎化や二次交通の整備などの課題と合わせ、水郡線を盛り上げようと、プロジェクトが立ち上がった。
車掌や駅員、整備士などメンバーの所属はばらばら。「水郡線を守りたい」という思いで一丸となる。乗客を駅で迎える「おもてなし活動」や、無人駅の環境整備、駅弁やオリジナルグッズの販売など、内容は幅広い。日々の業務をこなしながら、高村さんは「生活と観光の両面で水郡線の特色を伸ばしていきたい」と前向きに語る。
同支社の下山貴史支社長は「人口減少や高齢化で、通勤通学での利用が減っているのは事実」と受け止める。対策として「まずは継続できるイベントや企画で、『接点づくり』をすることが必要」と話す。
同支社はアウトドア人気を背景に、自転車をそのまま列車内に持ち込める「サイクルトレイン」を始めた。自転車を接点に、これまで利用したことがない人などを取り込むのが狙いだ。
実証実験を経て、22年にサービスを開始。定期列車を使った取り組みはJR東日本で初の試み。利用できる駅を順次追加し、38駅まで増やした。本年度は上半期に約400人が利用。順調に数を伸ばしている。
下山支社長は「何もしないままでは、地域の足として維持は難しい」とした上で、「これからの水郡線の在り方を、地元の人と一緒に考えていく必要がある」と力を込める。