《連載:茨城県議選 県政の課題》(5) 再稼働 地元は複雑

「再稼働について反対はしない。ただ、安全面の対策をしっかりやってからではないか」
茨城県東海村豊岡の自営業、男性(60)は、生まれも育ちも同村。日本原子力発電(原電)東海第2原発が稼働し、国から支払われる「電源立地地域対策交付金」などがインフラ整備に使われることで、村が発展する様子を見続けてきた。自身も過去に原電から仕事を依頼されるなど、恩恵を感じている。
再稼働を容認するのは将来の村の財政や村民の暮らしを考えてのことだ。「だが安全面に絶対はない」。重大事故が起き、放射性物質が拡散して故郷を追われたら-。拭い切れない不安に男性の口は重くなる。
県議選東海村区には、東海第2原発が立地。再稼働の是非を争点に、現新2氏が立場を鮮明にして論戦を展開している。
4選を目指す自民現職の下路健次郎氏(50)は、東海第2の安全対策工事の完了と広域避難計画の策定を条件に、再稼働の必要性を強調する。
二酸化炭素を排出せず、一定量を安定的に電力を供給できる電源は現状、原子力しかないと訴える。
電気代の値上がりが続く現状にも触れ、「住民の生活を守るため、結果として原発や再稼働が必要だ」と主張する。
共産新人の川崎篤子氏(69)は、再稼働の反対と廃炉を訴える。
東京電力福島第1原発事故の教訓から、再稼働は許されないとし、過酷事故時に東海第2から30キロ圏に住む住民避難も困難と主張。岸田政権による東海第2を含む原発再稼働の方針に対して批判を強める。
「東海第2の再稼働を止め、再生可能エネルギーへの転換を求めていく」と力を込める。
東海第2は1978年に営業運転を開始。2011年の東日本大震災で自動停止し、津波で非常用発電機3台のうち1台が使用不能となった。福島事故の後、現在も運転停止が続く。
再稼働を目指す原電は、安全対策工事を24年9月の完了予定で進める。一方、30キロ圏には国内原発で最多の約94万人が住む。事故に備え、周辺の14市町村に策定が義務付けられた広域避難計画の策定は難航している。
村人口の3分の1ともいわれる原子力関係者との生活上のつながりは深い。一方、福島事故の影響を目の当たりにし、「万が一」への心配は尽きない。
同村でフィルム加工会社を運営する男性(72)は「福島の事故は、東海第2に対する信頼にも響いた。だが、村やエネルギー問題を考えると必要。デリケートな問題であることには変わりない」とつぶやく。
別の男性(67)は「営業運転から40年以上たつ老朽原発を動かすことは危険で怖い。再稼働はあり得ない」と反対する。
再稼働を巡り、渦巻く賛否。選挙戦を見詰める村民らの思いは複雑だ。(おわり)