《連載:2025 暮らしと茨城県予算》(1)中小 賃上げに苦慮 大幅増額へ企業後押し

「社員には苦労をかけている。生き残ることで精いっぱいだ」
茨城県土浦市で機械部品加工業を営む飯村精機製作所。飯村智社長(50)は、自動車部品の仕上げ作業をする社員を見つめた。社長に就いて約6年。物価高騰などの影響で価格転嫁の値上げ交渉が難航する中、創業から70年以上にわたる会社の存続に汗を流す。
自動車のエンジン部品などを製作し、トラックや農機具のメーカーに納めている。社員は非正規、役員を含め18人。
下請けのため価格転嫁の進展が鈍く、同社が取引先に提出している値上げ交渉の見積もりは、相手先で調整中のまま動きがない。単価を上げてもらえず、人件費のほか油や電気代などのコストアップが経営を圧迫する。
茨城県の最低賃金は昨年10月、1005円に上がった。賃上げの原資の確保も苦しい。「国や世の中が思っているほど、われわれ下請けのところには利益は下りてきていない」と実情を明かす。
連合茨城による地場共闘センターに登録した県内労組の集計によると、昨年の平均賃上げ額は1万2147円で、賃上げ率は4.41%。21年から3年連続で上昇している。
その一方、電気や野菜などの値段も高騰。物価を示す指標となる24年12月の水戸市消費者物価指数は前年同月比3.3%増の110.3で、38カ月連続の上昇となった。
厚生労働省が今月5日発表した24年の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は前年を0.2%下回り、3年連続のマイナス。実質賃金がプラスに転じれば生活は楽になるが、上昇スピードの速い物価高に、賃上げが追い付いていない状況が続く。
県は新年度、大幅な賃上げに特化した中小企業支援に打って出る。
物価上昇を上回る賃上げを促進するため、1時間当たりの賃金を1010円以下の額から35円以上引き上げた県内の中小・小規模事業者らに補助金を支給。大幅アップに踏み切る際の「最初の後押し」をする。
支給額は正規雇用1人当たり5万円、非正規雇用1人当たり3万円。支給上限額は1事業所当たり最大50万円。4月以降の賃上げが対象となる。現在、最低賃金額に近い額で従業員を雇用している企業の賃上げを支援し、人手確保などにつなげてもらう狙いだ。
また、物価高の影響を受ける中小企業に対しては、設備投資を支援する奨励金事業を本年度に引き続き展開する。業務を改善し、労働生産性を上げることで持続的な賃上げにつなげる。県労働政策課では事業者に対し、賃上げ支援事業との併用を促す。
これらを県内の経済団体や金融機関に周知していく方針で、同課の糸賀正美課長は「浸透させることが大事。積極的に活用してほしい」と話す。
茨城県は2025年度当初予算案を発表した。経済の好循環に向けた緊急対策のほか、観光誘客策や企業誘致、医師不足対策など、茨城県が抱える課題に対応する。