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《連載:鉄路とまち TX20年》(2) 若年層移住で人口増 コミュニティー形成鍵

野菜の栽培や収穫を通じて交流するボランティア参加者=つくば市東平塚
野菜の栽培や収穫を通じて交流するボランティア参加者=つくば市東平塚


「カエルいた」「やったね」-。8月中旬、茨城県つくば市東平塚の畑。親子連れらボランティア10人が、和やかな雰囲気の中で野菜の収穫に汗を流した。

経済的に困窮する子どもを支援する市民団体「つくば子ども支援ネット」(同市)は昨年から、育てた野菜を子ども食堂などに無償で配る事業を始めた。団体は同所で農場を運営する企業と共同で、年間約10種類の野菜を栽培。ボランティアが草刈りや収穫を担う。

子ども3人を連れて訪れた小野由華さん(32)は「ここに来ると、みんなが遊んでくれるので、子どもたちも楽しそう」と目を細める。

作業後は昼食会を開催。持ち寄ったお総菜や、畑で取れた野菜の料理を囲んで交流する。団体代表の稲毛秀夫さん(62)は「半分農作業で半分はおしゃべり会。食を通じてつながる場にしたかった」と話す。

県の統計によると、つくばエクスプレス(TX)沿線の守谷、つくばみらい、つくばの3市は開業の2005年比で計8万9193人増(7月1日現在)。半面、高齢化率(同日現在)は3市ともに20%台で県平均の31.1%を下回る。沿線に移住した子育て世帯など若年層が人口増をけん引している。

一方、移り住んだ新住民が希薄な人間関係に悩む傾向もある。特に子育て世帯は、悩みや楽しみを気軽に共有できる友人が身近にいないこともあり、「孤独な子育てをしている人も多い」(稲毛さん)。

同団体に登録するボランティアは、昨年の開始当初約30人から現在約200人まで増えた。学生や子育て世帯が多く、20代から40代の若年層が8割を占める。研究者や会社員、公務員など業種もさまざまだ。稲毛さんは「普段生活していたら関わらない人同士が交流して、新しいものが生まれるコミュニティーができればうれしい」と話す。

筑波大(つくば市)の永田恭介学長はTX開業の影響を「東京が近くなった」と指摘する。入学者の割合で東京や埼玉、千葉の出身者は05年度の20%から24年度の33%まで増えた。

同大大学院修士1年の金龍泰さん(26)もその一人。千葉県松戸市の実家から通う。地域活性化に興味があり、9月に食とスポーツを通じたイベントを企画。農家の講話などを盛り込み、周辺市街地の魅力を伝えたいと意気込む。

筑波大生は、地域との関わりが深く、イベントやボランティアなどに参加し、コミュニティーの一員として欠かせない存在だ。

ただ「東京の誘引力は大きい」と金さん。TXを使えばすぐに都内まで遊びに行けるし、就活の話題に挙がるのも都内の大手企業が多い。「周辺市街地と関わりがないまま卒業する学生も多い」と苦笑いする。

永田学長は東京のベッドタウン化する沿線地域の現状を踏まえ、「生産的なまちができることが望み。新たな産業を興せるまちになったらいい」と期待する。



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