【鉄路とまち TX20年】 (4) 《連載:鉄路とまち 茨城・TX20年》(4) 東京延伸へ議論加速 茨城県、土浦方面「一体」描く

つくばエクスプレス(TX)では二つの延伸構想がある。
6月、TXを運営する首都圏新都市鉄道の都内本社。渡辺良社長に対し、松丸修久守谷市長や沿線自治体4市の幹部が向き合った。東京駅延伸に関する要望書を手渡し、延伸効果や需要予測などの調査の早期実施を求めた。自治体側は沿線の好調な住宅開発が今後も続く見込みだと説明し、鉄道の将来需要の安定を強調した。
要望したのは「つくばエクスプレスと都心部・臨海地域地下鉄の接続事業化促進期成同盟会」。昨年12月にTXと臨海地下鉄沿線の4都県11市区でスタートし、松丸市長が会長に就いた。今年2月には県も加わり、大井川和彦知事も要望書に名を連ねた。渡辺社長は8月の記者会見で今秋から調査を行うと発表した。
TX構想は当初、東京駅が起点だった。2016年、国土交通省の交通政策審議会の答申でTX東京駅と臨海地下鉄の接続が明示された。さらに都が臨海地下鉄を40年までに開業すると表明したことで、東京延伸の議論も加速して同盟会の結成に至った。
延伸実現のポイントを、松丸市長はかねて「熱意」と繰り返す。同盟会は市民への署名活動も検討している。議会も後押しする。県議会は6月に超党派の「つくばエクスプレス東京駅等延伸促進議員連盟」を発足、県内沿線3市の議会でも議連結成に動く。同盟会は各方面の動向を見て、総決起集会のタイミングを計り、熱の高まりを見せつけるストーリーだ。
もう一つの延伸構想は県が推し進める土浦方面だ。県は2月、土浦延伸の需要予測を試算した事業計画素案を公表した。費用便益比は国が延伸を許可する目安の「1」を上回る。東京延伸との一体整備で開通から27年で借入金を償還できると示した。数字は共に土浦延伸単独よりも良い。
土浦延伸は従来試算で「赤字」だが、今回は「応用都市経済モデル」と呼ばれる手法ではじき、数値が改善した。同モデルは延伸による移住や企業立地などの社会経済活動を踏まえたものだ。
県はこの試算を武器に一体整備に理解を求める。ただ同モデルは鉄道で実績が乏しく、県交通政策課担当者は「有識者にお墨付きを得た上で、採算が取れることを沿線自治体に納得してもらえるようにしたい。土浦延伸で鉄道ネットワークの効果が高まり、東京延伸の価値が上がる」と話す。県は30年ごろの交通政策審議会の答申を目指す。
期成同盟会で土浦延伸と連携する動きはない。特に東京、埼玉、千葉は土浦延伸のメリットを感じづらい背景もあり、TX沿線の市幹部も「東京延伸と土浦延伸のパッケージ化はすぐにはできない」と距離を置く。松丸市長も答申に載る東京延伸と比較し、「熟成度が違う。『つくば土浦(区間)』は土俵の外にいる。もう少し熟成度が上がらないと(同盟会で)触れられない。まずは東京延伸をやりきる」と慎重だ。