次の記事:《広角レンズ》「記名式ごみ袋」見直しへ 採用の茨城県内10市 個人情報保護、揺れる運用 

【茨城県政とくらし ’25知事選】 (5) 《連載:茨城県政とくらし ’25知事選》(5) 農業振興 輸出拡大も小規模無縁

約6メートルの大型貯蔵庫でサツマイモは低温管理され、年間通じて国内外に販売されていく=かすみがうら市深谷
約6メートルの大型貯蔵庫でサツマイモは低温管理され、年間通じて国内外に販売されていく=かすみがうら市深谷


大型貯蔵庫の扉を開けると、自社や契約農家で栽培されたサツマイモが入ったコンテナが、天井まで高く積み上げられていた。サツマイモの生産から加工・販売まで手がける、茨城県かすみがうら市深谷の「ひのでや」(滝雄太代表)。生イモを通年で国内外に出荷するため、複数の貯蔵庫で低温管理している。

同社が生イモの輸出に踏み切ったのは約13年前。挑戦の背景には、国内市場の将来的な縮小が大きい。日本産の品質の良さを伝えたいとの思いもあった。

海外向けは船便で運ぶが、品質保持が課題だった。最大で6割がロスになった時期もあったが、設備や技術の発展により、3%まで抑えることに成功。現在、タイなど東南アジアを中心に5カ国に輸出する。

最近では台湾向けが急増。2023年当初は年間50トンだったが、今年は200トンと4倍にまで増えた。とはいえ現状の販売は国内が中心だ。海外向けは扱う全量の3~5%(24年)にとどまる。担当する佐賀正治専務(51)は「輸出は〝引き出し〟の一つ。国内(需要を)守りながら、海外でどう仕掛けをつくっていくかだ」と見据える。

県は、生産者の所得向上を目指す「もうかる農業」を掲げ、農水産物の輸出やブランド化を推進。県によると、農産物・加工食品の24年度輸出額は過去最高の73億4225万円に上る。農産物に限ると31億7700万円で、比較可能な16年の24倍ほどに膨らんだ。

人口減少で国内市場の縮小が予測される中、所得向上には海外への販路拡大が鍵を握る。県県産品販売課は「これまでの営業活動が実り、花開いた」と自賛する。一方で「全国に産地はある。差別化するため、茨城県産をどう売り込むかだ」と課題を語る。

ブランド化では、メロン「イバラキング」とナシ「恵水」、クリ、常陸牛、銘柄豚「常陸の輝き」を重点5品目に位置付け、メディア露出による認知度の向上や、高級店での取り扱いなどを進める。県販売戦略課は「5品目だけでなく全体のイメージアップにつながる」とPRに努めている。

しかし、こうした施策と無縁の農家は少なくない。農林水産省が公表する「2020年農林業センサス」によると、茨城県の個人経営体は4万4009戸で全国最多。法人を含む団体経営体は843戸で全国18位とされ、県内の大多数は個人農家が占めている。

先祖代々受け継いだ田んぼで、約25年間コメづくりを行う同県水戸市の60代男性は「輸出は魅力的で格好はいい。だが、小さな農家には関係ない」と首を振る。再生産可能な価格保証など、個人農家への支援策を求めている。

市内で果樹園を営む50代男性も、輸出やブランド化を「大規模農家、ごく一部の農家や地域が対象になっている」と冷ややかだ。高齢のために辞めた同業者もいるといい、「いずれ地域で農産物が買えなくなるのでは」と悲観する。(おわり)



茨城の求人情報