【茨城・常総水害10年 教訓を未来へ】 (3) 《連載:茨城・常総水害10年 教訓を未来へ》(3) 防災情報 多言語で発信 共助へキーパーソン育成

「皆さんは自分の家のリスクを知っていますか」
「避難所には、メリットとデメリットの両面があります」
茨城県常総市水海道諏訪町の市役所議会棟で今月上旬、洪水などの災害に備えるための学習会が開かれた。ブラジルやアフガニスタンなどの外国籍を含む市民約30人が参加。外国人支援に取り組むNPO法人「茨城NPOセンター・コモンズ」の横田能洋代表理事(58)が講師を務めた。
学習会では10年前の2015年9月にあった常総水害の状況が説明されたほか、災害時に役立つアプリの使用方法が実演され、準備すべき防災グッズも紹介された。参加者からは「準備の大切さを再確認できた」「まず逃げることが大事だ」などと感想が聞こえた。
参加した日系ブラジル人の碓井エジロウさん(48)=同市=は10年前の常総水害で被災した一人。同市水海道橋本町にあったアパート1階の自宅は天井近くまで水に漬かり、2日間ほど引かなかった。
日本語が話せる碓井さんは当時、他のブラジル人の通訳を担った。防災無線の放送内容や避難所の場所とルール、行政への申請関係など、「日本語が分からない人たちは困っていた」と振り返る。
市内には当時、ブラジル人を中心に約4000人の外国人が暮らしていた。だが、支援物資の配布場所など、情報の大半が日本語で伝えられたため、内容を理解できない人が少なくなかった。
水害後、市は英語やポルトガル語で行う外国人向けマイ・タイムライン勉強会を実施。防災無線を多言語化したほか、4カ国語対応の防災アプリも導入した。
ただ、外国人は転出入が多く、「水害があったことを知らずに住んでいる人も多い」(横田代表理事)。このため定期的に周知するなど、根気強く対応することが求められている。
市内に暮らす外国人は現在、10年前と比べ約3000人増えた。ブラジルのほか、フィリピンやベトナム、スリランカなど出身国はさまざまだ。背景には水害によって住民が退去したことによる中古物件の増加や、地価低下の影響があるとみられる。
外国人が増え、多国籍になればなるほど、災害時の情報伝達は難しくなる。多言語での発信はもちろん、さまざまなツールを使って伝えていく必要がある。
方策として、横田代表理事は「防災のキーパーソンを通じて、外国人コミュニティーに直接情報を知らせることが重要」と強調。同NPOはまず10言語20人のキーパーソン育成を目指している。住む場所に関係なく、人脈ある人物を中心に候補を挙げている段階だ。
さらに、日本人と外国人が一緒に防災訓練を行うなど、交流しながら共に地域づくりに参加することが重要という。
「被災すれば誰もが同じ状況になるため、防災が一番手を取り合いやすい。仲間として共に動ければ、助け合っていける」