【茨城・常総水害10年 教訓を未来へ】 (5) 《連載:茨城・常総水害10年 教訓を未来へ》(5) 災害対応 9割超が改善 他自治体との連携不可欠

「隣のまちが大変なことになっている。対応策を考えなくては」。2015年9月10日。茨城県つくば市の防災科学技術研究所・総合防災情報センター長の臼田裕一郎さん(51)は、水害を伝えるテレビ映像を見て焦燥感に駆られた。
同県常総市の3分の1が浸水する被害。濁流は家屋を押し流し、救助のヘリが何機も上空を旋回していた。
臼田さんは、自治体や関係機関が持つ災害対応に関わるさまざまな情報を一元的に集約し、共有できるシステムを開発する研究者。「SIP4D」と呼ばれ、現在は国のシステムにその技術が取り入れられているが、当時はまだ開発の初期段階。「研究のためのニーズと課題は現場にある。災害対策本部がどんな状況なのか、見る必要がある」。臼田さんは行動に移した。
市役所は1階が浸水し、地上にあった非常用電源が水没。固定電話が使えなくなり、携帯電話だけで情報をやりとりするなど市の災害対策本部は一時、機能不全に陥っていた。
臼田さんは水が引いた12日に到着。すぐに電子地図を活用した情報集約を市の災害対策本部に提案した。手書きのメモでやりとりしたり、紙の地図にペンで書き込んだりしていたからだ。被害状況を空撮した外部からの情報も活用されておらず、関係機関と十分な連携が取れていないのは明らかだった。
臼田さんのチームは交通規制や避難所など、さまざま文字情報をデジタル化し、浸水域を示す電子地図に重ね合わせて可視化した。これにより、それまでばらばらだった情報が統合され、被災地全体の状況を俯瞰(ふかん)して把握できるようになり、自衛隊や消防、警察、ボランティアらの活動に生かされた。
臼田さんは常総市水害対策検証委員会の委員も務め、16年6月には77項目の改善要望を盛り込んだ報告書を市に提出した。市はこれを受け、情報通信技術(ICT)の導入など災害対策本部の機能を強化。現在までに9割超の改善が進んだ。
年1回の災害対策本部の運営訓練には必ず、国土交通省下館河川事務所のほか、自衛隊、消防など関係機関の「リエゾン」(情報連絡員)に加わってもらい、意思疎通を図っている。隣接するつくば市と同県つくばみらい市とは広域避難協定に基づき訓練を実施。来月もつくば市今鹿島の豊里柔剣道場で住民主体の避難所開設訓練を行う。
常総市防災危機管理課の粕田貴裕課長(52)は「水害で想定する最大避難者数は4500人で、避難所の収容はぎりぎり。それだけに、他の自治体との連携は不可欠」と語る。
臼田さんは言う。「同じ災害を二度と起こさない対策はもちろん、災害は状況によって異なる。日本各地で発生する災害の状況を知り、それが常総市で起こったらどうなるかを想定し、常に総合的な視点で対策をアップデートしてほしい」。(おわり)
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