【いばらき 減少時代を生きる】 (第4部 防災(4)) 《連載:いばらき 減少時代を生きる》第4部 防災(4) 自主組織 変化に対応 人つながり備え
鬼怒川と小貝川に挟まれた茨城県常総市中妻町の根新田地区で5月下旬、地区の自主防災組織のメンバーが点検訓練を行った。
参加したのは30~70代の役員の男女9人。防災倉庫から備品を運び出し、点検や使い方を一つ一つ確認した。
同地区は2015年9月の関東・東北豪雨で大きな被害を受けた。水害以降、約1割が地区を離れた。子どもは減り、自力での避難が難しい高齢者が増えている。
同地区自主防災組織の代表、辺見芳宏さん(66)らは「若い世代は仕事で外出している人が多い。日中の災害対応が課題だ」と口をそろえる。
同地区の町内会には約90世帯が加入する。水害を機に、町内会を母体にした自主防災組織を結成。一斉ショートメールサービス(SMS)を使った情報発信を柱に、災害対策のデジタル化を進めてきた。
町内会のホームページに、災害時に必要なサイトを集約するほか、役員宅にカメラを設置して地区を流れる川の様子を中継。ドローンの飛行許可を取得し、非常用の携帯電話の充電器や太陽光パネルも整備した。
同地区の防災士会の中根正市会長(53)は「自分たちの町は自分たちで守る、という意識と備えが必要」と話す。
自主防災組織は災害発生直後、地域での「共助」を目的とする。県内では、東日本大震災や常総水害をきっかけに組織が急増。県の調べによると、団体数は震災前の2010年に比べ、23年は900増の約3300に増えている。
ただ、活発な組織がある一方、代表者が町内会長を兼ねていたり、休眠状態だったりと、温度差があるのが実情だ。県南地域の自治体職員は「何をどう活動したらよいのか分からない、と相談されることもある」と明かす。
自主防災の形も、地域や住環境の変化に合わせてさまざまだ。同県牛久市ひたち野東のマンション群「びゅうパルクひたち野」の住民らで4年前、自主防災組織を立ち上げた。現在、約500人が所属している。
管理組合と区長など住民団体の代表で役員を構成し、副会長の宮田政拓さん(77)は、「マンションと自治区の防災機能を集約し、指揮系統がはっきりした」と語る。
停電でエレベーターが動かなくなるなど、高層階のあるマンション特有の災害リスクに備える。年齢や家族構成によって自宅を空ける時間帯は異なり、住民同士の付き合いの度合いはまちまち。個人情報の取り扱いも「防災に特化した活動であれば受け入れられやすい」と宮田さん。
約500人に及ぶ大きな組織も、避難方法に関するアンケート調査や防災訓練を通し、意思の疎通から始め、災害時の共助につなげるという。
人の入れ替わりが多いマンションなど自治会加入率の低い地域は、住民のつながりが弱く、自主防災組織への加入や新設が難しいとされる。筑波大の梅本通孝准教授(社会工学)は「防災は万人が納得できる価値観。防災を切り口にコミュニティーをつくり、備える必要がある」と訴える。
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