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【いばらき 減少時代を生きる】 (第4部 防災(5)) 《連載:いばらき 減少時代を生きる》第4部 防災(5) 家庭、学校、地域で 記憶を語り、伝える

地元の漁業の歩みなどを小学生に説明する新妻晴美さん=北茨城市関南町
地元の漁業の歩みなどを小学生に説明する新妻晴美さん=北茨城市関南町


茨城県北茨城市関南町の市漁業歴史資料館「よう・そろー」。豊漁を祈願して江戸時代から続く「常陸大津の御船祭」で使う船を保管・展示する。

入り口のガラス扉には、床から約2メートルの位置にテープが貼ってある。

「東日本大震災の時には、こんな高さまで水が押し寄せたんだよ」。同館職員の新妻晴美さん(62)が校外学習で訪れた市立中妻小の3年生6人に語りかける。背丈よりはるか高い位置にあるテープを見上げ、子どもたちが「ええっ」と声を上げた。

「みんなは生まれる前で経験していないけれど、ここから学んでほしい。津波の時はすぐ高い所に逃げて」。目の前にいる一人一人に思いを伝える。

大津漁協の秋元寛さんは上役に依頼され、震災の記憶をつなぐ語り部を引き受けた。語り部として活動してきた先輩職員は、定年を迎え退職した。

ほかの職員たちと協力し、県内外の学生らに体験を語ってきた。ただ、活動回数は年々減少。新型コロナ禍を機に震災体験に絞った語りの依頼は途絶えた。

同県つくば市の小中一貫校、市立吾妻学園の保護者らでつくる「吾妻学園おやじの会」は、10年以上にわたり学校と連携し、防災教育に取り組んできた。

2012年、同市北条地区を竜巻が襲った。前年の震災では、市内最大規模の避難所が同小に開設された。被害の記憶や教訓を伝える活動は、卒業に伴う保護者の代替わりや教員の人事異動で徐々に薄れつつある。

会員の国土技術政策総合研究所(つくば市)の長屋和宏さん(53)らは、当時の教員やPTA会長らに話を聞き、教材にまとめた。

防災手帳を作り、災害時に身を守るすべを紹介。手帳に載せる防災マップの基礎は、同学園の児童らが授業で作成する。1年生の授業参観では、手帳を基に親子で防災について考える。

「自分事として防災に取り組めるよう、情報を伝えていくのが大人の役目」。長屋さんらは地道に活動を続ける。

常磐大看護学部は4年前から、地域包括ケアシステムを学ぶ講義の一環で、北茨城市のボランティア団体や福祉施設などを訪ねている。今月、4年生のグループがよう・そろーを訪問。炊き出しをしたり、近所で助け合ったりした震災時の体験を聞いた。

卒業後、学生たちはひとたび災害が起これば、病院や避難所など、それぞれの場所で看護に当たる。同大看護学部の専任講師、横山和世さんは、「学生たちには被災者の立場や気持ちに寄り添い、災害対応に当たれる看護師になってほしい」と願う。

「天災は忘れた頃にやってくる」。語り部を続ける秋元さんは、機会をみつけ、地元の子どもたちに漁業の歴史と合わせて震災の体験を伝える。震災後生まれの子どもたちが増える中、記憶をつないでいる。



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