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【AI いばらきの未来図】 (第1部 効率化(2)) 《連載:AI いばらきの未来図》第1部 効率化(2) 水と肥料の「専門医」 農作物、収量増に活路

AIが算出したデータを見ながら、ハウス内の環境を確認する都竹大輔さん=常陸大宮市野口
AIが算出したデータを見ながら、ハウス内の環境を確認する都竹大輔さん=常陸大宮市野口


御前山を背に那珂川沿いに立つ「つづく農園」(茨城県常陸大宮市野口)。県オリジナル品種「いばらキッス」などイチゴ7品種を育てる。

ハウスではスマート農業システムが稼働し、人工知能(AI)技術を使って水や液肥の供給を自動化する装置が、43アールのほ場の約6割で導入されている。

一株一株の苗が今、どの程度の水や肥料を欲しているか-。センサーで感知した土壌水分量や天気予報を基にAIが計算し、畝に張り巡らせたチューブを通じて最適な水分を送り込む。

代表の都竹大輔さん(52)は「水かけの専門医のような存在」と信頼を置く。ただ、装置は「あくまで右腕」。目標とする土壌水分量や養分濃度は自ら設定し、これまでの経験や知識を頼りに微調整もする。

一方、毎日数時間かけてバルブを開け閉めして水を与えていた時代に比べると作業効率は大幅に向上した。「畑と向き合う時間が増えたことが何より大きい」

毎朝、日が昇るころハウスに入り、生育状況や病害の発生がないか見て回る。事務所に戻ってパソコンを開き、AIが導き出したその日の計画を確認するのが日課だ。

農業産出額が北海道と鹿児島県に次いで全国3位の茨城県。高齢化や人手不足が課題となる中、データやロボットを活用するスマート農業技術に注目が集まる。都竹さんも国の実証事業に参加したのを機に導入した。

作業をAIに任せることに当初は懐疑的だったが、考えが変わったのは、従来の栽培方法よりも量が取れた時だった。畑の状態も良く「これなら大丈夫」と確信し、2年前、AI技術の活用を10アールから25アールへ広げた。

収量はかつて10アール当たり4トンほどだったが、現在は同6~7トンに増加。売り上げも1.5倍ほどに増えた。資材高が続く中、規模拡大よりも、AIなどの技術を使って面積当たりの収量をいかに増やすかを追求する。

現状の技術に固執せず、毎年、栽培方法を見直すことを心がけており、その際にも「過去のデータを全て振り返ることができ、次に生かせる」

現在は農業・食品産業技術総合研究機構や県と、AI技術を使った収量予測の研究も進めている。

葉の大きさやハウス内の環境データなどから予測収量を算出する仕組みで、高単価の時期の出荷につなげるなど「予測ラインを目標にすることで技術力も上がるはず」と期待する。

ハウス内では光合成に必要な二酸化炭素や温度を制御する別のシステムも稼働中で、将来的には潅水(かんすい)や施肥のAI技術と統一することで、一つのシステムで全てのデータを見える化する技術を目指している。

脱サラし、新規就農して20年近く。今の一番の目標は、過疎化が進むこの中山間地域を「奥久慈いちご」の産地とすること。「負けたくない相手」というAI技術を駆使し、イチゴと向き合い続ける。



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