【AI いばらきの未来図】 (第2部 創造(1)) 《連載:AI いばらきの未来図》第2部 創造(1) ドローンに最適経路 飛行ショー演出、提案も

サッカーコートほどの広さの芝生に、プロペラを付けた黒い機体がずらりと並ぶ。その数500機。約1メートル間隔で配置される。
4月下旬の夕暮れ時、茨城県取手市小泉の田畑が広がる平原。機体の発光ダイオード(LED)がまばゆく輝き、緑やピンク、オレンジなどに光っては地面を照らす。約10人のスタッフが無線で連絡を取り合いながら、せわしなく動き、準備を完了させて退散する。
プロペラが回り出すと、「ブーン」と低くうなるような音が響き、機体はすっと浮き上がる。約15分間、地上から最高約200メートルの上空で光の点が色を変えたり、スムーズに陣形を組み替えたりしながら夜空に「絵」を描く。巨大なキャラクターや立体アニメーション、ロゴマークが次々と出現する。飛行が終わると、整然と元の地点に着陸する。
小型無人機「ドローン」を使ったショーのリハーサルが練習場で行われていた。実施したのは国内業界最大手の「レッドクリフ」(東京都)。最高経営責任者(CEO)の佐々木孔明さん(30)は「エンタメ性と空を使ったプロモーションという二面を持ち、『エンターテインメントな広告』」とショーを表現。魅了された1人として「次世代型花火」とも評価する。
ドローン1機は重さ約530グラム。衝突しない仕組みがある。同社によると、1台のパソコンからワイヤレスで機体に送信された飛行プログラムに従い、正確なルートを飛行する。衛星利用測位システム(GPS)と高精度の位置情報機器も組み合わせ、わずか数センチの誤差にとどめる。
飛行プログラム作成に人工知能(AI)を利用する。各機体の動きを解析し、最も効率的で衝突リスクのない最適な飛行経路を自動的に算出する。
広報担当者は説明する。
「AI活用で滑らかで美しい動きをシミュレーションし、ショー全体の完成度を高め、より複雑でダイナミックな表現が可能となる。自然なトランジション(移動)や短い時間で多くのモチーフを表示できる」
ドローンショーは2021年にあった東京五輪開会式で披露され、一躍脚光を浴びた。「空のエンターテインメント」として広がりを見せる。
同社は19年に設立。ドローンによる空撮が主な事業だったが、21年から本格的にドローンショーに参入した。今では国内市場の約6割(24年)を占め、売上高トップだ。開催中の大阪・関西万博でも会期の全184日間で千機規模のショーを企画する。県内でも取手市や常陸大宮市などの花火大会でショーの実績がある。
佐々木さんはAIによってショーがさらなる進化を迎えると確信する。現状の制作期間は、3Dソフトでショーの「絵」をつくる工程も含め約2カ月。だが、わずか5分に短縮できる可能性もある。高品質でより多くの作品が残せることになる。「季節や地域の特徴をくみ取った演出もAIが提案してくれるかもしれない」。ショーの未来に胸を膨らませる。
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AIを活用することで新たな産業やサービス、技術の可能性が広がっている。AIが創造する「世界」を追う。
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