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【AI いばらきの未来図】 (第2部 創造(3)) 《連載:AI いばらきの未来図》第2部 創造(3) 需要予測 農家に助言 適正出荷量で収益向上

農産物直売所で、AIが示したデータをスマートフォンで確認する綿引太一さんと市橋陽平さん(左から)=那珂市鴻巣
農産物直売所で、AIが示したデータをスマートフォンで確認する綿引太一さんと市橋陽平さん(左から)=那珂市鴻巣


旬の野菜がずらりと並ぶ陳列棚を前に、農家の男性がスマートフォンを操作する。人工知能(AI)の助言が、画面に映し出される。「売れ筋価格は360円で25個です」

茨城県那珂市鴻巣の農産物直売所「ふれあいファーム芳野」で1月、NTTデータ関西(大阪市)が提供する販売需要予測サービスが稼働した。

AIが直売所の販売実績や、周辺の天候などから客数を予測する。商品を納める組合員農家のスマートフォンに、適切と判断した出荷量や価格を示す。農家は早期の完売や売れ残りが減り、収益向上につながる。過去の売れ行きを時系列で確認できるのも利点の一つだ。

「直売所は、午前中が勝負と言われていた。だがデータを見始めてから、午後も売れている時間帯があることに気付いた」。トマトやナスなどを納める綿引農園(那珂市)社長の綿引太一さん(35)はAIが示す販売実績などの効果を語る。

組合員農家の売り手側の勘や経験だけでなく、「データとして上がってくるのは心強い」と実感を込める。

「商品が十分に置かれていなければ、来店したお客さんは困ってしまう。でも多すぎれば、農家のロスになってしまう」。市農政課主幹の細谷悠一さん(36)は指摘する。

AIによる販売需要予測サービスは市が国の交付金を活用し、市内の農産物直売所2カ所で導入した。直売所は陳列した野菜が売れ残ると、農家自身の責任で引き上げる仕組みのため負担が大きい。農家は直売所に出荷する量を少なく見積もる場合がある。

ふれあいファーム芳野を運営する農業活動拠点施設運営組合の副組合長、市橋陽平さん(44)は、「農家が新たな野菜の生産に挑戦できるようにするのも目的の一つ」と語る。出荷量が適正なら農家の負担も減る。直売所の品ぞろえが充実し、活性化につながると期待を寄せる。

消費者ニーズの多様化などを受け、AIによる需要予測の活用は広がりを見せる。膨大なデータを即時に取り込み、人間にはない視点を示す役割を担う。

カジュアル衣料雑貨のアダストリア(同県水戸市)は、自社ブランドの「グローバルワーク」にAIによる需要予測を取り入れている。

2023年春夏物から、Tシャツなどの定番商品に本格導入した。店舗の販売時点情報管理(POS)データや、EC(電子商取引)モールの購買データなどをAIが学習している。かつては需要を過小に見積もる傾向にあったが、予測精度は高まっているという。

AIの判断と、商品の在庫調整などを行う担当者の判断を比較することで、「ヒトの仕事の精度向上にもつながっている」と同社。欠品による「機会損失」の改善にとどまらない成果を得ている。



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