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【AI いばらきの未来図】 (第1部 効率化(5)) 《連載:AI いばらきの未来図》第1部 効率化(5) 共に研究 信頼の助手

AIを活用して古代エジプト語の研究を行う筑波大准教授の宮川創さん=つくば市天王台
AIを活用して古代エジプト語の研究を行う筑波大准教授の宮川創さん=つくば市天王台


■多分野で活用、着想生む

古代エジプト文明に広く浸透し、いまだ謎多き言語として、世界中の研究者が熱い視線を注ぐ古代エジプト語。

その一人として活躍する筑波大准教授の宮川創さん(35)=歴史言語学=は、研究加速へ人工知能(AI)をフル活用する。

聖書の写本や手紙といった当時の資料を撮影した画像データから、AI搭載のOCR(光学的文字認識)でテキストデータを文字起こしする。別のAIで一つの文章ごとに分けるなど構造化し、「コーパス」と呼ばれるデータベースを組み立てる。

一連の作業はかねて研究者の目と手を頼りに行われてきたが、「意外とケアレスミスがある」と宮川さん。正確性を高めながら、作業時間の短縮や負担軽減につなげる。


こうした大量のデータを生成AIの基盤となる「大規模言語モデル(LLM)」に追加学習させ、さらなる成果を生み出す。

古代エジプト語から現存するコプト語に至るまでの発音や文法の変化を探るほか、ホームページで公開する翻訳チャットボットにも活用する。

AIを活用する手法は、消滅の危機に直面する多くの言語の保存にも役立てている。日本のアイヌ語や琉球諸語、台湾のタロコ語-。生成AIで歌や動画を作り、復興を後押しする催しで披露したこともある。宮川さんは「AIは助手ですね」と信頼を口にする。

AI活用は、多くの研究分野に及んでいる。

科学技術振興機構研究開発戦略センターによると、2023年にAIを活用した世界の論文数は、生命科学・医科学と化学・材料の各分野で約2万本に上る。過去10年間で生命科学・医科学は約20倍、化学・材料は約30倍に増えた。

背景には、大量のデータを自ら学習する深層学習(ディープラーニング)の進展などがある。同センター担当者は「いろいろな分野でAIのキーワードが含まれている論文が増えている」と指摘する。


ベンチャー企業エイゾス(茨城県つくば市)が開発したAI解析ウェブアプリ「マルチシグマ」は、多様な研究開発の「超効率化」をうたう。

必要最小限の実験データを基に、複数のAIが品質やコストといった目標値の最適解を探り出す。AIの学習条件の設定を自動化したのが大きな特徴だ。

無数にある実験条件と、複数の目標値に人力で対応するのは困難を極める。ただ、このアプリならばAI人材を雇う必要もない。

かつて人工心臓のデザインに用いたところ、溝の角度や深さなど7200通りある設計の最適解を30~60回のシミュレーションによる実験で探り当てた。

同社創業者の河尻耕太郎さん(48)は「設計思想ががらっと変わった」と振り返る。その上で「(AIは)新しい現象の発見のアイデアにつながる。そこにはすごい価値がある」。(第1部おわり)



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