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【AI いばらきの未来図】 (第3部 共生(5)) 《連載:AI いばらきの未来図》第3部 共生(5) 社会インフラ見据え

AIが作動するためのアルゴリズムを検討する筑波大の桜井鉄也教授=つくば市天王台
AIが作動するためのアルゴリズムを検討する筑波大の桜井鉄也教授=つくば市天王台


■改善重ね、安全性を追求

研究室のホワイトボードが難解な数式で埋まる。

筑波大人工知能科学センター研究統括の桜井鉄也教授(63)=数理情報学=によると、人工知能(AI)が特定の問題や目標を解決するための計算手順「アルゴリズム」の関数という。自身はAIが答えを導き出す計算式を日夜研究する。

急速に存在感を示してきたAIだが、実は「古くて、新しい」研究分野だ。桜井教授によると、概念自体は1950年代から存在した。以来、ブームは何回かあったが、一過性でしぼむことの繰り返しだった。

「第4次ブーム」とされる今回は全く様相が異なる。「日常的にいろんな人が使えるようになり、社会への影響が大きい」と映る。象徴が対話型AI「チャットGPT」の登場だ。「専門的なプログラムを入力せずとも、人間の言葉で指示を理解してくれるようになった」と説明する。

ブームの鍵となったのは、AIによる学習に必要な大量のデータ収集と、それを可能にしたインターネットの台頭だ。

桜井教授は「今のAIは大量のデータから自ら学び賢くなった。なぜそういう答えを出したのか、中で何が起きているのか複雑で、説明が困難になってきている」と進化に驚く。2017年設立の同センターは研究の一つに「信頼できるAI」を定める。

桜井教授も「安全なAI」を追究し、医療で大量データを生かす研究に取り組む。筑波大付属病院を含め茨城県内9病院と連携し、患者のデータを集め、病気の予兆発見や効果的な投薬に役立てる構想だ。

ただ患者の情報は病歴や通院歴など極めてプライバシーに関わる事項が多く、AIによる外部流出は避けなければならない。研究ではデータを、元の内容が推測できないよう処理した後、AIに学習させる。またAI自身に情報の秘匿などを学習させるような改善も重ね、安全性を高める。

人間の知能を超える「シンギュラリティー(技術的特異点)」や人間の仕事を奪う懸念など、脅威や不安が渦巻く。

それでも桜井教授は「生活を変えた蒸気機関や電気のように社会インフラになっていくのでは」と見据える。特に少子高齢化で人手不足にあえぐ日本では、AIによる効率化が労働力を補う。「日本は必要性の最前線。うまく活用できれば海外に発信できる」と捉える。

AIの安全について「交通安全」に例える。信号の順守などを規定した道交法や自動ブレーキなどの技術開発、運転免許、道路環境…。幾重もの対策で事故ゼロを追求してきた。「技術だけでなく国際ルールなど、人間が整備していくことが重要だ」と説く。

同センターは「人を支援するAI」を掲げる。実現のためには、使い手である私たちの方こそ問われている。(おわり)



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