《連載:AI いばらきの未来図 プロローグ》プロローグ(下) 「第2の目」医師支援 情報解析、個別化医療へ
内視鏡を使って患者の大腸や胃の内側をモニターに映し出す。「この部分、怪しい」。日立港病院(茨城県日立市)の末永大介医師は、慎重に検査映像を確認しながらつぶやいた。
人工知能(AI)が患部を囲むように四角でマークし、腫瘍性や新生物性といった意味を表す「Neo-plastic(ネオプラスティック)」の文字が浮かんだ。
同院は1月、内視鏡画像診断支援システム「CAD EYE(キャドアイ)」を導入した。画像診断はAIが得意とする領域の一つ。病気かどうかの判断や悪化の度合いは、映像だけで判断が難しい場合もある。そんなとき、膨大な臨床データを学習した医療AIが医師の「第2の目」となり、病気の可能性のある箇所を指摘し、早期発見などにつなげる。
末永医師によれば「(AIは)ダブルチェックの役割を担う分身のような存在」だという。医療の質向上や業務の効率化につながっていると実感する一方で、「完璧ではない。あくまで自分の知見や経験をサポートするものだと理解し、うまく使うことが大切だ」と語る。
AIは画像診断だけでなく、患者への問診にも役立っている。城南病院付属クリニック(同県水戸市)では、患者が症状や訴えなどで回答した内容に応じ、AIが自動的に判定して選択肢を変える「AI問診」を導入した。
主に初診の患者に対して活用しており、紙での問診に比べ、詳細に症状などが把握できるという。回答を基に、AIはどんな病気の可能性があるかなどを示し、医師は診断や治療法に役立てる。回答は電子カルテに反映されるため、業務が効率化した。
城南病院の菊地修司院長は「患者には高齢者も多く、AI問診の方が時間がかかってしまう場合もある」としながら、「助手のような存在。今後さらに、医療の分野でAI活用が進むのではないか」と可能性に触れた。
筑波大人工知能科学センター(同県つくば市)の桜井鉄也センター長は、AIを活用することで「病気かどうかの判断だけでなく、新薬の開発や各個人に適した治療を見つけることができる」と、医療分野での広がりに期待する。
同センターは2017年に開設し、関係機関と連携して「人を支援するAI」を推進する。患者一人一人の遺伝情報や生活習慣に基づき最適な治療法を提供する「個別化医療」の実現に向け、AIによるゲノムデータの解析などを研究している。
今後、特定の病気と遺伝子の関係性などが解析されていけば、それぞれの病気に対する最適な治療法や、新薬の開発にもつながるという。ただ、実現にはより多くの医療データ蓄積が課題となる。「患者のプライバシーを守りながら、協力してくれる医療機関を増やす必要がある」と指摘した。